10分でわかる菅原伝授手習鑑
二段目
05
道行詞の甘替
加茂川から姿をくらました斎世親王と苅谷姫にやっとのことで出逢えた桜丸は、頬かむりで顔を覆い、飴売りの姿になって道明寺のある土師の里へ向かっていました。
土師の里には菅原道真の伯母であり苅屋姫の実の母の覚寿がいます。
桜丸は姿を隠したいと願う二人のために覚寿を頼ろうと考えたのでした。
\咲寿太夫のまめめも/
道明寺は大阪府藤井寺市にある真言宗御室派の寺。
聖徳太子の河州尼寺建立の願に応じて、
菅原氏の祖、土師八島連が自邸を寺としたものといいます。
のち菅原道真のおば覚寿尼が入住。
本尊十一面観音像は国宝。
二人を飴の荷箱に忍ばせて京を発った桜丸は、芹川や淀を越えて町を過ぎてからひと目がなくなった岩清水あたりで二人を出しました。
夜通し歩き、朝日が昇り始めています。
三人は進んでいきました。
苅谷姫の着物にたきこめた香木の香りで芳しく、蝶が袖にとまります。
苗代田を作る時期で、遠目に農作業をしている人たちの姿が目に映りました。
春風が心地よく、人々が姿を現します。
見つかっては大変とばかりに、桜丸は飴売りに扮して売り声を高らかにあげました。
子供たちが寄ってくると、親たちも買い求めに近寄ってきました。
\咲寿太夫のまめめも/
道行では登場人物の旅路を詞章に乗せ、掛け言葉や
土地土地の名産品などを絡めて辿っていきます。
お客さまは擬似的な旅の気分に浸っていただけます。
この道行では京都から大阪へ旅をしています。
そんな人々の世間話の中に、桜丸の耳を疑う噂話がありました。
菅原道真の九州への流罪が決まったというのです。
津国の安井の里で出航の準備をしているということでした。
三人の動揺は大きく、苅谷姫は取り乱して泣き出してしまいました。
桜丸は二人を連れて道を逸れると、安井の浜を目指して歩みはじめました。
心は安くなく、思いを重ねる旅路となったのでした。
とよたけ・さきじゅだゆう:人形浄瑠璃文楽
太夫
国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽
公演に主に出演。
その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
オリジナルLINEスタンプ販売中
豊竹咲寿太夫
オフィシャルサイト
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