心中理由第1位は遊女と不倫① | さきじゅびより【文楽の太夫(声優)が文楽や歌舞伎、上方の事を解説します】by 豊竹咲寿太夫


心中理由第1位は遊女と不倫①








人形浄瑠璃文楽のお芝居で、武士が主人公のものは時代物、町人が主人公のものは世話物と言います。



世話物の中でも「心中もの」は一大ジャンルといっていいほどたくさん存在します。



封建制度がしかれ、現代よりも身分がはっきりと違っていたころ、個人の力ではどうしようもない壁がそこかしこにそびえたっていたのです。


また、町人や商人は町の中での横の繋がりがとても強く、ひとたび悪い噂がたてば商売はできなくなってしまいました。





だからこそ、心中という選択肢が身近に存在し得たのでしょう。













  

▶︎遊女と遊郭と町人




心中ものの中で遊女が登場する芝居はとても人気でした。




それらの芝居の原点にして、今なお上演すれば必ず満員御礼となる演目「曽根崎心中」では主人公の徳兵衛と遊女のお初が心中します。


遊女は遊郭というところで働いていました。


郭という字は城郭という語彙で使われていることからも想像しやすい通り、囲われた土地のことを指します。



遊郭の多くはその敷地の外を川や堀などで囲われていて、遊女たちは基本的にその敷地の中から外に出ることなく暮らしていました。





遊郭、つまりお茶屋へ遊びに行くためには大変お金が必要です。


夜のお仕事、というイメージが強いかもしれませんが、それは仕事の一端で、遊女たちは三味線や琴、胡弓や地唄端唄、舞いなどで客の食事を彩ることが大きな仕事でした。


それらの芸事を極めた遊女のことを傾城と言います。




傾城の元の意味は「城を傾けるほどの絶世の美女」ですが、遊女の傾城はただただ顔ばかりのことではなく、そのように全てを極めなければなりませんでした。




安月給の庶民からすれば、遊郭で遊女と食事をともにするということは大層な憧れであり、目に触れることも滅多にないため秘密めいた神秘的なものであったのです。


反対に遊郭へ通えるということは、財力があることをアピールできるため、商人としての箔がつくことにも繋がりました。



また、遊郭の遊女が店をやめる為には、おそろしい金額のお金を支払わなければなりませんでした(現在の違約金に近い感覚を持っていただくと分かりやすいと思います)


そのため、太客がそのお金を肩代わりして「身請け」をすることがありました。


身請けをして幸せになれるかどうかはその客次第ですが、ともかく遊女も簡単には店をやめることができない仕組みになっていました。




ですので、ただの町人と遊女が普通の恋愛で結ばれるということは、まずまず有り得ないことだったのです。


秘密めいた存在の遊女。


当時の芝居では遊女というキャラクターを出すと客足がのびたという逸話すらあります。





こうして、遊女とお金のない町人との恋愛、そして身請けができずにお金を使い込んだり、身請けに自分のものではないお金を使ったりし、結果信用問題にかかわって街に居ることができなくなり、心中。




そのような王道パターンが生まれました。




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心中理由第1位は遊女と不倫②