恋する傾城は、誰よりも強かった!文楽・歌舞伎の名作、阿古屋。 | さきじゅびより【文楽の太夫(声優)が文楽や歌舞伎、上方の事を解説します】by 豊竹咲寿太夫






 恋する傾城は強かった! 



さきじゅです
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こんにちは。

文楽の太夫、豊竹咲寿太夫です。

「豊竹」さんはたくさんいるので、「さきじゅ」と呼んでください。




今日は、とある傾城のお話です。




拷問にも負けず、恋人の行方を話さなかった、傾城のお話です。









阿古屋琴責め

琴責め!



その字の並びから、想像する拷問とはどのようなものでしょう!?



あの大きな琴で殴りますか?






いえいえ、実はこの琴責め、物理的な拷問ではなかったのです。





精神的な拷問でした。





源平の戦いで平家が敗北したあと、平家の武将でとてつもなく強かった藤原景清という人がいました。



通称: 悪七兵衛景清といいます。


その景清の生存の可能性が極めて高いため、源氏は総力を上げて彼の行方をおっていたのでした。




そこで、目をつけたのが景清と恋人関係だったと噂されていた阿古屋という傾城だったのです。











阿古屋は景清の恋人!














物理的な尋問には屈しない!




源氏の人々は阿古屋を呼び出し、拷問にかけて景清の行方を聞き出そうとしました。

恋人ならばなんらかの便りがあるだろうという算段です。




さて、傾城という人は、遊女の中で最高格の人たちのことをいいます。



江戸のほうでは花魁という言い方もしますが、上方の演目ではあまり馴染みがありません。


遊女は遊郭の中でお客さんを楽しませるお仕事ですが、現在の夜のお仕事とは少し違います。


普通の料亭のように、食事を共にし、遊女たちはお客さんの前で舞や三味線や琴などを披露するのです。


そうして、その中でも常連だったり太客だったりする人は一晩をともにするという仕組みでした。


その中で、見た目が美しく、芸事は全て完璧、隙のない完璧な遊女だけ傾城となることができるのです。





阿古屋はその傾城でした。




もちろん、顧客のことは何があっても外に漏らすことはありません。


さらに、景清は恋人。



いくら物理的な拷問を受けようとも、口を開くことはないでしょう。




阿古屋の尋問の担当になった重忠はそのことを十分承知していました。













傾城は遊女の頂点。
















どうなる!阿古屋!



そこで、重忠が考えたのが、精神的な尋問でした。


傾城である阿古屋なら、琴・三味線・胡弓など、楽器はもちろん達者です。


ただ、いくら達者でも精神的に揺さぶりをかければその演奏には歪みが必ず生じるもの。




重忠はそこを狙ったのです。




阿古屋は重忠のもとへ呼び出され、三つの楽器の演奏を強要されました。


その演奏にそれぞれ景清に関する質問をぶつけます。




これは、尋問する側にもそれぞれの楽器に対する教養がないと成立しない、非常に高度な心理合戦なのです。




かつて、このような尋問が執り行われたことがあったでしょうか。






▲  詳しいあらすじはこちらをご覧くださいね!











阿古屋の精神責めの結果はいったいどうなるのか・・・!?







阿古屋は尋問に対し、見事に乱れなく演奏しきります。


作中では、阿古屋自身が本当に景清の行方を知っていたのか明言する文章はありません。



ですが、武士にかこまれ、お白州での取り調べで異例の楽器演奏というイレギュラーに、心を乱さずに自身の信念を貫いた阿古屋は、恋する傾城の強く芯のある姿を見せたのでした。














とよたけ・さきじゅだゆう
:人形浄瑠璃文楽
ぶんらく
太夫

国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽
ぶんらく
公演に主に出演。


その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
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