咲寿太夫の初めて文楽を観るのにオススメの演目!③ 玉藻前曦袂 | さきじゅびより【文楽の太夫(声優)が文楽や歌舞伎、上方の事を解説します】by 豊竹咲寿太夫


九尾の妖狐の玉藻前。



人形浄瑠璃文楽の太夫、豊竹咲寿太夫
さきじゅだゆう
です。


初めて文楽を観るのにおすすめの演目は何ですか??
というご質問にお答えするシリーズその③です!


バックナンバー


その① 義経千本桜
「道行初音旅」・「河連法眼館の段」



その② 曽根崎心中








たまものまえ。



今日ご紹介するのは

玉藻前曦袂
たまものまえあさひのたもと


です。





玉藻前といえば、九尾の妖狐として有名な怪異ですね。



この妖狐が玉藻前になるいきさつから、国家を乗っ取ろうとするクライムサスペンス型の文楽では珍しいダークヒロインが主人公のお芝居です。





そもそも玉藻前は宮廷に仕える人で、帝のお気に入りの女の子だったのです。



九尾の妖狐はアジアの大陸の掌握に失敗し、次に目をつけたのが日本でした。


帝のお気に入りである玉藻前を自分の中へ取りこみ、妖狐は玉藻前に変化します。




そうして、帝の兄弟の薄曇皇子と結託し、日本の乗っ取りの画策を始めたのでした。


玉藻前と薄曇皇子のテロに立ち向かったのは陰陽師でした。


世界を魔界にすると息巻く玉藻前と陰陽師の戦いが幕を開けます。。。










テンポの速いスペクタクルなお芝居。





きつねただのぶさん。
LINEスタンプその2


https://line.me/S/sticker/11063760
きつねただのぶさん2










まるでライトノベル!!!



この玉藻前曦袂、実は原作があって、
「絵本三国妖婦伝」
という、全15巻におよぶ小説でした。




この作品は15巻ありますが、1巻1巻の分量はそんなに多くなく、物語の進み方も非常にテンポのよいスピーディーなものでした。

読者は飽きることなく次々に刊行される物語にのめり込み、この作品はベストセラーとなります。



そんな人気作がメディアミックスされるのは必然



さらに題材的に、人形芝居である人形浄瑠璃に適材だったのです。


まるで現代のライトノベルやマンガのアニメ化や、2.5次元ミュージカル化に近いものがあります。


鬼滅の刃みたいな感じです。






さて、初演されたのち、近年に近付くにつれ、人形浄瑠璃の芸能的に求められる要素が変化してきます。




ケレン味のある、いわゆる人形でしかできないような芝居表現は影を潜めるようになり、重厚な人間ドラマや義太夫節自体の技巧を凝らすこと、物語の意外性や伏線の多さなどの技術に重きがおかれるようになります。




そのため、「実は〇〇だった」「それも実は〇〇だった」という、ミステリー小説のように入り組んだ作品が多く出てくるようになります。

こういったお芝居はたいへん面白いのですが、伏線だらけで初めての方がご覧になると何がなんだか意味不明になってしまいます。




もちろん、物語として伏線というのは非常に大切な要素ですし、伏線がなければ驚きもないので当時から
現代まで上演されているベリーロングランの作品は少なからず伏線要素はあります。



そしてこの玉藻前曦袂でもその要素がある場面はあり、むしろ九尾の妖狐が玉藻前を乗っ取って日本転覆を企ててからは原作の要素を活かしてスピーディーにスペクタクルに物語が進行します。


九尾の妖狐がアジアから日本に来るまでの間の玉藻前がいかにして宮廷に仕える(入内する)ようになったかというエピソードには重厚な人間ドラマと伏線が張り巡らされた、いわゆる「文楽らしい」場面として、こここそが名作だとこの場面(道春館の段)のみの上演が多く繰り返されてきました。







しかし!!


時代とともにお客さまのニーズが変化するのは必然!!


2015年、玉藻前曦袂の日本侵略編(このお芝居自体はインド侵略編と中国侵略編、そして日本侵略編からなりたっています)が通し上演されたのです。



するとこれがどうでしょう。


今まで通春館の段だけがこのお芝居の見るべきところとでもいうかのような風潮がひっくり返ったのです。



文楽は難しい、わかりにくいという意識をいとも簡単に拭って、口コミ口コミで初日から右肩上がりに入場者数が増えていきました。



私の視点からしても、通春館の段は浄瑠璃
じょうるり
として非常に素晴らしく、物語としても人間ドラマに重きをおかれた、従来の「文楽らしいおもしろさ」があり、さらにそこから巻き起こる妖狐のスペクタクルスピーディーでファンタジックで、おそらく江戸時代末期から昭和後期にかけて稚拙と捉えられてきたものが一周まわって新鮮味のある面白さをもって平成の舞台の上に再建されたのです。



物語もシンプルでとっつきやすく、また早替わりなどの視覚的に楽しめる要素も多く、演奏も派手で楽しいものになっています。









上演頻度は少ないですが、次に上演される時はぜひ初めての方をお連れになってください!







\\\ いいね ////
を押していただくと励みになります。

よろしくお願いします。






https://utme.uniqlo.com/jp/t/MgEHNiE
三味線トートバック










とよたけ・さきじゅだゆう
:人形浄瑠璃文楽
ぶんらく
太夫

国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽
ぶんらく
公演に主に出演。


その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
オリジナルLINEスタンプ販売中