5分で分かる「菅原伝授手習鑑」車曳きの段。【わかりやすい文楽】 | さきじゅびより【文楽の太夫(声優)が文楽や歌舞伎、上方の事を解説します】by 豊竹咲寿太夫





三つ子は三つ子でも。






はやみねかおるさんの、夢水清志郎シリーズにどっぷりと首まで浸かっていた、私の小学生時代。


ヒロインは三つ子でした。



いやはや、三つ子が主役などとは珍しい、と小学生ながらに感服したわけでございますが、中学生になって、さらに目を皿にしたわけでございます。




梅松桜。


そう、菅原伝授手習鑑。









恩恵を受けた三つ子




「天神さま」、と神さまとして祀られるほどの人気ぶりである菅原道真。


そんな彼の恩恵をうけた三つ子がいました。


梅王丸

松王丸

桜丸


です。


お芝居では見た目も性格も違うので、三卵生三つ子だと考えられます。

百姓の出身ながら、道真のはからいで貴族の牛馬などを管理する官人舎人
とねり
となったのです。



三人はそれぞれ違う主君に仕え、舎人として成長していきました。










三つ子だけれど見た目も性格も違う!!









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ストーリーで楽しむ文楽・歌舞伎
菅原伝授手習鑑
金原瑞人・佐竹美穂











道真はめられる



誰からの信頼も厚い道真でしたが、彼を敵視する人物もいました。


それが、藤原時平
しへい
です。



時平は天下をとって天皇のような存在になりたいので道真が邪魔で仕方がありませんでした。




そうして企てられたのが、有名な道真の太宰府への左遷です。




この時に、時平が道真を左遷するための理由の小さなほころびを作ってしまったのが、斉世親王に仕えていた桜丸でした。


道真に仕えていた梅王丸と久しぶりに再会した桜丸はその悔やみを梅王丸に吐露します。



さて、そこへ時平を載せた車が通りかかりました。

梅王丸と桜丸は、道真を左遷させた時平が憎くてたまりません。

道を塞ぎ、車を止めました。



その二人の前に立ちはだかったのが、時平の舎人をしている松王丸でした。








兄弟といえども、ひとつでない!









三つ子トリック



ミステリーなどで、一卵性双生児の取り替えトリックはタブーですが、こちらは三つ子な上に、彼らは三卵生三つ子。


その三つ子という特殊さを、兄弟三人の仕える主君によって、さらにその性格の違いと立場を際立たせるという巧妙な仕掛けを作者は取り入れてきたのです。


作中に印象的な言葉があります。
「松はつれない」




一触即発の三人の前に現れたのが、藤原時平。

時平は梅王丸、桜丸の存在を「アオバエめ」と笑い飛ばし、二人は圧倒的な時平の存在感に萎縮してしまいました。






二人は時平を足止めすらできず、悠々と去っていくのをゆるしてしまったのでした。


もちろん松王丸は時平の舎人ですから、梅王丸・桜丸とはこの段階で明確に敵対関係が成り立ちました。


そうして、三人の関係は悪くなっていったのです。









桜丸切腹の段へ続く






私の好きな車曳きの段。

歌舞伎的な様式美も取り入れつつ、三つ子三役の掛け合いの妙や時平の浮世離れした圧倒感を感じていただける場面でございます。



今回私は桜丸をつとめさせていただきます。


ぜひ大勢の方にご覧いただきたく思います。


お待ちいたしております。











とよたけ・さきじゅだゆう
:人形浄瑠璃文楽
ぶんらく
太夫

国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽
ぶんらく
公演に主に出演。


その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
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