今日は稽古の後、少し隙間時間ができたので、本日より公開の
ナイブズ・アウト
を見てきました。
ネタバレなしで個人的な感想をつらつらと記していこうと思います。
今夜も珈琲とともに。
監督はSWの異端児。主人公は007の異端児
ミステリー映画である本作は、アガサ・クリスティーに捧げる映画と銘打たれています。
私がライアン・ジョンソン監督の映画を初めて観たのは、スターウォーズ「最後のジェダイ」の時でした。
まるで、EP2の時のような、これまでにないスターウォーズ像を提示なさり、新鮮さがある反面往年の(つまりは旧三部作)作品の枠組みを軽々と越えてきたことによる賛否両論が飛び交ったことは記憶に新しいことと思います。
ジョージ・ルーカス本人は、そのようにスターウォーズを型に囚われない冒険活劇にすることは歓迎だったということもささやかれています。
事実はどうあれ、とても挑戦的かつ意欲的な作品で、物語が進むごとに観客の予想をウサギのように飛び越えていきました。
そのライアン監督が、脚本を100%オリジナルで手がけたのが、今回のナイブズ・アウトです。
もとを辿れば、ライアン監督のルーツは推理ものにあるということで、この作品は監督の「やりたいことがつまった」作品になっているのだろうと想像します。
さて、推理小説、とくにアガサ・クリスティが活躍した時代の推理小説と、現代のミステリーとはかなり感覚に差異が生じます。
近年のミステリー映画というと、やはり大きな作品では警察もしくはそれに相当する機関と謎の犯罪者との対立になってきて、スリリングな展開があるものです。
そういった意味ではダニエル・クレイグ版007はバックボーンもしっかりしていて、脚本にもファンタジックな要素のない、アクションミステリーな要素がありました。
そのダニエル・クレイグが、今回主役の名探偵を演じています。
ダニエルのジェームズ・ボンドは、抜擢当時は今までのジェームズ・ボンド像にない容姿だったため、たくさんの批判がありました。
ですが、007「カジノ・ロワイヤル」公開とともにその評価はひっくり返ります。
今や、ダニエル=ボンドは、ショーン・コネリー=ボンドにひけをとらない人気ぶりです。
作りあげられた肉体、寡黙だけれどウィットのとんだ人物像、そして深い精神性。
ダニエルが作り上げたボンド像は、以前までのいわば最高級のマンネリズムを崩壊させ、シリアス路線をさらに強調させたものでした。
ですが、そこは007、世界をまたにかけ、世界中どこへでも飛びます。
物語の舞台はどんどん移り変わるのです。
現代的なアクションと、シリアスなミステリー要素というのは密接に結び合っていて、その法則が再び至高のマンネリズム感に繋がってきたような感覚はいなめません。
やはり一般的によくいわれる、クリストファー・ノーラン監督のバットマン=ダーク・ナイトシリーズに端を発して、そのオマージュのひとつの頂にたったのがサム・メンデス監督の007「スカイ・フォール」だったと感じます。
創作は常にマンネリズムとの駆け引きである。
ナイブズ・アウトは何を革新したか。
さて、前述したように、この映画はアガサ・クリスティーに捧げられた映画です。
アガサ・クリスティーの作品でとくに有名なのが、名探偵ポワロシリーズです。
髭がトレードマークの、ジョークが好きな名探偵。
近年、「オリエント急行殺人事件」がケネス・ブラナーによって公開され、次作は「ナイル殺人事件」の映画化も決定しています。
オリエント急行殺人事件は
・密室
・登場人物全員容疑者
・天才探偵
という要素をもって、それを王道に押し上げたといっても過言ではない作品です。
ケネス・ブラナーは舞台でも活躍していることもあってか、この三つの要素をきっちりと踏襲し、まるで舞台をみているような、近年のミステリーにはなく、古典回帰なのに新鮮なそんな映画となっていました。
今回のナイブズ・アウトは、まさしくそのアガサ・クリスティーの王道要素を踏襲し、さらに観客の予想を見事に(軽々と)上回ることを「楽しんだ」映画と言えるでしょう。
きっとこの記事をご覧の皆さまはある程度他の記事であらすじの外殻などはお調べだと思いますので、ここではとばします。
まずは、冒頭の濃厚な弦楽器のクラシカルでしかしたまに外しくる劇伴に酔いしれてください。
これから始まる舞台にあなたを心地よく誘ってくれます。
そこから先は濃厚で軽妙な推理小説の時間です。
ジェームズ・ボンドでは肉体での映像表現を魅せてきたダニエル・クレイグによる、「この探偵は何を考えているのだろう」と思わせる軽快で思慮深く、ウィットにとんだTHE名探偵があなたをお迎えします。
そして、ライアン・ジョンソン監督による、完璧なプロット、そしてなによりも観客の予想を簡単に上回ってくる手腕に唸ってください。
これはSWEP8の見方も変わる映画です。
ぜひとも極上の推理小説をお楽しみください。