〜本日のお品書き〜
お帰りなさい。
寅さん。
先日、男はつらいよを観てきました。
小さなころから、冬になると家族でお鍋をつつきながら観ていた映画、寅さん。
渥美清さんがお亡くなりになって、監督が構想されていた残り二作が幻となってしまいましたが、49作目として名作のリリーとのエピソードを特別編で、そうして今回50周年を記念して、寅さんの甥の満男を主人公に据えた物語が誕生しました。
寅さんの「型」
さて、せっかく映画のことをお話しするのなら、伝統芸能的な視点からもみてみたいと思います。
寅さんは的屋稼業をしながら、全国をふらりふらりと旅をするように廻っています。
人情に厚く、女の人にはめっぽう弱い寅さんは、毎回マドンナと出会い、恋におちて、最後はふたりは離れなくてはならないという少し切なくも心あたたまる物語です。
この形式がずっと続きます。
一作二作ではなく、48作目まで貫かれるのです。
もはや、「型」です。
日本で成熟した文化は基本的に型を重んじます。
底辺に型が存在して、お客さまはそこに安心感を求められるという構図があります。
これはマンネリズムとは違っていて、ただ新しいことをするのはとっても簡単なことですが、積み重ねられる「同じこと」を決して飽きさせることなく、引きこませながら時には外しながら、しかし最後にはお決まりの展開があってお客さまはそれを分かっているけれど何故か新鮮さと安堵感を覚えるという「文化」だと考えています。
だからこそ50作品まで愛された寅さんだと思いますし、後半から甥の満男の恋模様も同時に進行するようになったのは作品が進歩を続けていた証だと思うのです。
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渥美清さんに捧げるファンと渥美清さんのための寅さん
さて、今回の寅さんはスターウォーズ9と重なるものがあります。
渥美清さんの死去、
キャリーフィッシャーさんの死去。
そしていずれもCG復元での出演ではなく、ご本人の既に撮影を終えていた映像を繋ぐことによって作られた映画であるのです。
寅さん50のあらすじはおそらくすでに知っている方が多いのだろうと思いますので割愛します。
人生の大事な局面に、大事な人のことを思い出す。
それは誰しもが経験したことのあることではないでしょうか。
満男は、寅さんのことを自分と重ね合わせるように思い出していきます。
作中では寅さんの生死には言及されません。
いまだどこかで旅をしているのかもしれませんし、どこかでいい女の人と暮らしているのかもしれません。
今作での寅さんは象徴的存在となっています。
また、これは渥美清さんからこれまで作品を愛してくれたファンへのラブレターのようでもありました。
この作品から寅さんにふれても大丈夫かと言われると、それはどうだろうと思います。
寅さんの人情とこれまでの作品のテンポ感や、マドンナとの距離感、必ず訪れる切ない別れ、そうしてまた旅に出て行く寅さん。
そういった寅さんシリーズで引き継がれてきた王道の匂いを知っていないと、「満男の映画」になってしまうでしょう。
ですが、監督も明言しているように、やはりこの映画は「寅さんの映画」なのです。
寅さんがいなくても、みんなのそばに寄り添っている存在、それが寅さん。
「情」を纏った、50周年記念にふさわしい、寅さんへの、寅さんからのラブレターでした。