松香兄さんは3月に引退されました。
今月のパンフレットに正式に記載されましたので、ここにも書かせていただこうと思いました。
先日送別会があったのですが、松香兄さんは本当にみんなから好かれていて、たくさんの人が集まりました。
もちろんぼくも出席しました。
松香兄さんには小さなころからお世話になっていて、楽屋が一緒の時期もありましたし、楽屋での礼儀振る舞いや段取りなど細やかに教えていただいたものです。
ぼくの中で印象深い松香兄さんとの思い出があります。
あれはたしか中学生のころだったでしょうか、先代玉男師匠の1111回目の「曾根崎心中」徳兵衛での出演の日があったのです。
ぼくはその日、上手の舞台袖からその舞台を見ていました。
すると、松香兄さんがそっと後ろから近寄ってこられて、ぼくの肩に手を起き、「最後になるかもしれへんから、よお見ときや」と耳打ちされました。
舞台では天神森の段の張り詰めたような死に向かう空気が膨らみ、照明が玉男師匠と簑助師匠をぼんやりと照らし、後ろの松香兄さんとその舞台を見るという、情景描写として脳裏に色濃く残っている記憶です。
人をよく見、人のことを考え、人のために行動すること。
これらを松香兄さんから学びました。
文楽は他の芸能の方々とは違い、皆がずっといっしょです。
百人近い団体がずっと、それこそ命つきるまでいっしょであるという芸能はあまり類を見ないと思います。
その中で、皆に好かれて惜しまれて引退される松香兄さんの存在は、柔らかな輝きに似た空気がありました。
松香兄さんにネクタイをいただき、さっそく着けてみました。
おしゃれなんですよ、兄さん。笑
それと、誰の口からも出る「松香兄さんはモテモテ」という思い出。笑
「艶がある」という言葉で表現される方もいました。笑
かっこいいうえに優しい、人のことを考えて行動されるという、ね。
長い芸能生活、お疲れさまでございました。
これからもよろしくお願い致します。
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