今日も『酒とつまみ』の制作ではなく、本業のライター仕事で何やかやしているうちに夜。じゃ、ちょっと行きますか。そんな掛け声とともに、編集長O氏とカメラS氏と一緒に飲みに出る。場所は、編集部の近くにある中華食堂、上海ブラッセリー。店内が埋まっていたので、入口横のテーブルに3人で陣取る。むしろ今の季節はこっちのほうが心地よく、あとはもう、近くを流れる隅田川の川風にあたりながら、旨い生ビールをゴクゴクと味わえばいい、好きなだけ酔えばいい。……はずだった。


 ところが、今宵の僕らのテーブルはとてつもなく重い。いや、木製のテーブル自体はそれほど重いワケではなく。いや、わざわざそんなこと書くまでもないかもしれないけど、重いのは場の空気だった。


 その原因を作ったのはカメラS氏だ。とにかくもう暗いの一言で、口から出てくるのは嘆き節と溜息ばかり。いつもだったら、S氏お気に入りのウェイトレスIちゃんが注文を取りに来ると、「Iちゅわ~ん! 頼むよ~ん!」とか何とか言って、Iちゃんの独り占めに励み、仕事の邪魔をすることも多々。それなのに、今日はIちゃんがテーブルに来ても、ずっとだんまりモードを貫き通していた。


 そんな豹変ぶりや負のオーラに恐れをなしたのか、Iちゃんも用を済ませると、そそくさと店内に戻っていく。まあ、仕事を邪魔されないワケだから、店としてはよかったのかもしれない。いやいや、入口横にそんな重い空気に包まれたテーブルがあったら営業妨害の何物でもないか。


 なぜS氏はそこまで暗かったのか。実は今日、ついに家族から最終宣告を受けてしまったとのこと。もはや覆しようがないのだという。


 「俺が悪いんだよ~」「……」「何だよ~、何とか言ってくれよ~」「そ、そうかもしれないですね」「何だよ~、そうかもなんて言うなよ~」「はあ……」「だからさ~、やっぱ自業自得なんだよ~」「そうですかね」「何だよ~、そうですかねなんて言うなよ~」「はあ……」「何だよ~、はあなんて言わねえでくれよ~」「はあ……」


 結局、2時間ほど飲んだものの、3人の会話はほとんど盛り上がることはなく、場の空気は、吹き抜ける川風などにはビクともせず、重みを増す一方だった。午前11時すぎ、S氏の負のオーラにいまだ引き気味のIちゃんに見送られ、店を出る。夜空はいつしか雲がかかり、どんより。それを見上げた僕らの気分も、ますますどんより。ああ、こうして、今宵、浅草橋の夜は重く更けていったのである。


 まるで鉄球を鎖で両足に付けたかのごとく足取り重いS氏と浅草橋駅で別れた後、O氏と僕は中央線に乗り吉祥寺駅へ。どちらが何を言うワケでもなく、二人の足は昨夜と同じくハバナムーンに向かう。さすがに重い気分のまま家路に着くこともできず、もう一軒飲みに行って、気分転換をしたかったのは言うまでもない。ところが、O氏と何かを話していても、いつのまにか話題になるのはS氏のこと。


「どうすんだろうなあ……」「どうすんでしょうねえ……」「はあ……」「はあ……」


 こうして、今宵、吉祥寺の夜もまた重く更けていったのである。ああ。
(ナベ)