Still runnin' against the wind. | 坂の上のタムラ君

坂の上のタムラ君

書き留めないと想い出せない。

ターミナル駅の長い地下道。

歩きながら考え事。

「すれ違う人、視界に入る人の全てがマスクしてるってSF映画並みに異様な景色だよな。100年後『2020 Covid-19 Pandemic』て歴史に刻まれてんだろな」

「GDP戦後最悪。ってニュース速報になってるけど、そんなの誰もが予想してたよな。そこじゃなくって民間が出した予想より内閣府の方が悪かったから大騒ぎなんでしょ? 大袈裟にしたのに実際もっと悪かったって。大変な時代なんだよ。9末から倒産失業たくさん出るだろなぁ」

紀伊国屋書店下辺りで向こうから歩いて来るスーツのおっさんと目が合う。てかこっち見ながらすれ違う。

 

 

「kenさんっ」

 

振り向くとすれ違ったおっさん。

 

「元気ですか?」

 

あ。すみませんっ考え事してたもんで。

ええ、まぁ、なんとか。

ご無沙汰です。お元気ですか?

 

「元気です」

「kenさん、元気そうで良かった」

 

ありがとうございます。

 

「そう。ほんとに良かった」

「じゃっ」

「頑張りましょうね」

 

あ。はいっ。ありがとうございますっ

 

 

短い挨拶だけで地下道の人混みに紛れて行った。

高そうな紺のスーツ、ぴっかぴかの靴、黒ぶちの眼鏡、手入れされた髪。きちんとした身なり、仕事出来そうな雰囲気。

マスクしてるのによく俺だって判ったなぁ。

24時間以上経った今、

 

で?

誰?

 

わかんねーわー

思い出せないぃ、俺を下の名前で呼ぶってことは最近の知り合いじゃないな。

なっんとなく判りそうなんだけどねぇ・・

おっさん思い出せなくてもべっつにいーかー

 

 

 

地下鉄が地上に出ると、海側、千葉茨城方向にもの凄く大きな積乱雲。反対側、丹沢〜奥多摩の上に崩れた積乱雲と雨雲が白と鈍色のコントラスト、切れ間から漏れた陽が剣の様で中世の宗教画。陽が雲に透過され空気の全てがオレンジピンクでファンタジーの世界。まるでコロンビア映画のオープニングロゴじゃないかっ(これね↓勝手に使ってごめんなさい)

 

 

 

 

今日は来るだろ。

ここまで夏空だったら「ぱっかんぱっかん♪」ツナ缶開けるみたいに雷雨だろ。

急いで帰ろ。

 

 

・・・・・。

俺はもう誰も信じない。

雷神なんか絶対だ。

なんで栃木?

宇都宮で局地的集中豪雨?

知らねーよ。

溺れろ餃子。

 

 

 

「kenさん、月末の仕事なんですけど」

 

(まったかー)

 

「延期になりました」

 

(あーそっすか。これ何回目?)

 

「撮影場所の許可がコロナで出なくて」

 

(? どこで撮ろうとしてんの?)

 

「休館日の使用交渉を私が直接やってますので」

 

(え。あそこ貸してくれんの?! 聞いたことない。NHKくらいじゃないあそこで撮影やったの。さっすが省庁関連)

 

 

つかそこじゃないよ。

ぽつぽつ仕事はあるんだよ。今日も1件キープかかったし。たださ、たーださ、中止延期が多い。すっごく多い。

で、やれそうでもギャラが安い。ここぞとばかり足元見てくる。それでも「今は仕方ないですね」て受けるけどさ。

なにより問題はその「ぽつぽつ」で成り立つのか?てこと。

成り立たないだろこんなんじゃ。

どーするよ?

そりゃ制作は「良くなることを期待して」て言うけどさ。

 

 

 

「kenさん、△△△さん知ってましたっけ?」

 

あー・・・なんとなく。

赤ちゃん生まれた人?

 

「そうです」

「で、家建てたんですよ三鷹に」

 

あーそれなんか聞いた。

 

「手放したそうです」

 

え。

 

「先月」

「建てて2年で」

 

あー・・・・・