この記事の初回掲載日2024/02/08、情報更新日2024/10/07

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前回の発達障がいの診断に関するQ&Aに引き続き、発達障がいの検査についてまとめました。

 

 

 

◆ 発達障がいには検査は必須ですか?

 

回答:

体の病気の場合は、この病気にはこの検査を行うと決まっているものがあります。

しかし、知的障がいや学習障がい以外の発達障がいの検査では、確実にこの検査をしたら診断されるという検査はありません。

特に発達障がいの中でも、自閉スペクトラム症やADHDに関する診断は、基本的には観察して分かったことや、これまでの経過から判断します。

 

ただし、ここで問題になるのは、発達障がいには薄めの人から濃いめの人までかなり幅が広いということです。

ぱっと見て一目でわかるほど特徴が強い人は、検査をしなくてもその場で診断できてしまいます。

 

また、これは私見ですが、臨床経験が豊富、あるいは臨床能力の高い医師(または心理士)ほど、薄目の発達特性も見抜く目を持っています。特に知的障がいと自閉スペクトラム症(ASD)など複数の特性がある人や、逆にIQが高いタイプのASDの場合、あるいは「自閉」というイメージとは程遠く明るいタイプのASDなど、典型的でないASDについては、臨床経験の浅い人ほど、見抜けないことが多いかと思います。

 

ただ、もし特性が薄目である場合は、一回の診察で診断するのではなく、保護者や教育機関からの細かい情報を頂いたり、検査をしてじっくり観察する時間をとった方が分かることが多いです。

 

また、同じ診断名であっても、発達障がいは人それぞれ特徴がだいぶ異なります。そのため、診断名を明らかにするだけではなく、その人個人の様々な特性を明らかにして、実際の支援や生き方にまで踏み込んだレポートを作成するには、やはり検査をした方がより詳しく分かります。

 

◆ 自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)の検査に、WISCまたはWAISは必須ですか?

 

回答:

WISC(子ども)/WAIS(大人)をはじめとする知能検査は、もともと知能を測るものであって、自閉スペクトラム症やADHDなどの発達特性の診断のための検査ではありません。

 

それでもASDの検査として日本でWISC/WAISを測定することが多いのは、ASDの診断を行う検査としてもっとも重要なADOS-2が、日本の医療の報酬算定に含まれていないこともあり(つまり検査をしても医療機関は保険収入を得られない)、医療機関での実施に広がりがないことにも要因があると考えています。

 

一方、ADHDについては、認知機能にも影響があることも多いため、診断に必須ではありませんが、WISC/WAISによって認知機能を測ることも一つの手だと考えます。

 

◆ 発達性学習症(LD)の検査にWISCまたはWAISは必須ですか?

 

回答:

別名学習障がいと呼ばれる、読み書き障がいや算数障がいの場合、知能指数(IQ)が正常範囲であることが診断基準の1つとなっているため、基本的には知能検査は必須となります。

知能検査はWISC/WAISではなくても田中ビネーなど他の検査でも可能ではありますが、学習支援に必要な様々なそのお子さん自身の特徴を調べるためには、基本的には世界的にもWISC/WAISが行われています。

 

また、LD診断については、WISC/WAISといった知能検査以外にも、読字、書字、計算、算数などの学習面での検査も必須となります。ただ、この学習面での検査については、言語によって違いがあるため、日本や欧米諸国では行われている検査が異なります。日本では、K-ABC-2、STRAW-R、URAWSSII、T式音読検査などがあります。

 

◆ 知的発達症の検査にWISCまたはWAISは必須ですか?

 

回答:

別名知的障がいの検査には、IQが診断基準の1つであるため、WISC/WAISをはじめとするIQ測定が必須です。

ただ、療育手帳や特別支援学校の入校等、IQの数値だけが必要な場合、WISC/WAISは検査時間が長いので、田中ビネーやK式発達検査などの検査が行われることがあります。また、WISC/WAISの適用年齢に達していない場合や、検査の実施自体が困難な中程度以上の知的発達症の場合も、同様に田中ビネーやK式発達検査が行われることがあります。

 

さらに、2022年1月から実施されたICD-11という新しい診断基準では、IQだけではなく、適応能力(その人が実際の社会の中でどの程度うまく生きることができているか)も診断基準の一つとして加味されることとされています。この適応能力を測定する検査として、Vineland適応行動評価尺度があります。

 

 

◆ 発達障がいの検査に、脳波検査・頭部MRI検査・遺伝子検査は必須ですか?

 

回答:

必須ではありません。

 

それぞれの検査を行う必要があるような特殊な所見があれば行うことがあり得ます。

例えば、熱性けいれんではないけいれん発作がある場合などには脳波検査、体の一部が麻痺するなど特徴的な脳神経に関する症状があれば頭部MRI検査、遺伝性疾患を疑うような特徴的な顔つきなどの症状がある場合は遺伝子検査、といった具合です。

しかし、例えば脳波検査や遺伝子検査を行い、脳波や遺伝子に異常があったからといって、発達特性の診断には影響がありません(頭部MRIについては場合によるかと思います)。

 

余談ですが、光トポグラフィー検査を発達障がいの検査としてうたっている医療機関がありますが、発達障がいの診断のための検査としてはまったく必要ありません。

 

◆ WISC/WAISは数年ごとに検査し直す必要がありますか?

 

回答:

基本的には生まれつきの認知機能は生涯変わらないものとされています。

従って、検査し直す必要は基本的にはありません。

 

ただし、知能検査は検査を実施した日のコンディションによってかなり数値に差が出てしまいます。

従って、例えば多動が顕著なお子さんや、まだコミュニケーションの力が十分に発達していないお子さんの場合、WISC/WAISをしても本来の能力よりも低い数値が出てしまうことがあります。

そのため、実施した検査のコンディションが悪い場合は、数年後に取り直す場合があります。

 

なお、WISC/WAISについては、再検査の場合、最低でも1~2年は間隔をあけて実施します。それは以前実施した問題の記憶があると、「学習効果」といって正確な数値よりも高い数値が出てしまうからです。従って、前回の検査の記憶がなくなったくらいの時期に実施した方がよいでしょう。

 

 

◆ 以前より本人の能力が伸びているかを知りたいので、WISC/WAISを行ってほしいですが、できますか?

 

回答:

基本的に生まれつきの認知機能は生涯変わらないものとされています。

そのため、認知機能が伸びるというのはそもそもないことが前提です。

 

ただ、もし知能検査上で、数値が伸びたとすると、もともと持っているIQが何らかの原因で過去の検査で出てこなかったということが考えられます。

特に自閉スペクトラム症(ASD)のお子さんの場合は、7~8才くらいまでIQがその子の本来の能力に達しない数値しか出ないことがあります。従って小学校入学前後で測定し、小学校中学年くらいでもう一回測定して「伸び」を確認するということはあり得るかもしれません。

 

しかし、それ以外の場合は、基本的に「伸び」を確認する目的でWISC/WAISを実施し直すことはあまり行われません。

 

もし、成長に伴って本人の状態を知りたいということでしたら、WISC/WAISを取り直すよりは、ADOS-2やVineland-IIなど他の検査を行う方が本来の目的には近いかもしれません。

 

◆ WISC/WAISを何度か実施しました。どれが一番正確な数値でしょうか。

 

回答:

検査で一番良かった数値が、その人本人の持っている能力の最大限が発揮されたと考えられるため、一番正確に近い数値と言えます。

 

◆ 英国で自閉スペクトラム症の診断を受けるのはどんな検査がありますか?

 

回答:

英国では、ほとんどの場合、自閉スペクトラム症(ASD)の診断にはADOS-2(エイドスツー)という検査が行われています。

この検査は遊びのような構成になっている検査で、お子さんでも楽しく検査ができます。

ただし、この検査はその検査時間中に見られる状況でしか判断しないという限界があります。

特に感覚過敏やこだわりは、その場面にならないと見られないことがあり、検査中に見られなければADOS-2では判定できない場合があります。

他にADI-Rという保護者に発達歴や現在の症状をインタビューする検査があり、こちらもADOS-2同様にASDの診断としてゴールドスタンダードの検査です。本来はADI-RとADOS-2を合わせて行うことがベストですが、両方合わせると非常に時間がかかるため、ADOS-2しか行われていないことが多いです。

 

詳しくは、下記もご参照ください。

英国の自閉症診断①:2年待つか20万円以上払うか | 児童精神科医 坂野真理のブログ (ameblo.jp)

英国の自閉症診断②:診断方法の違い | 児童精神科医 坂野真理のブログ (ameblo.jp)

 

 

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