このシンプルなご質問を頻繁に頂く職業なのですが、この質問が診断する側の医師として一番困ります。

 

なぜなら、「発達障がいかvs発達障がいではないか」という問いかけ自体が、根本的に違うからです。

 

こういう感じのよくある質問への答えを探している方に、すぐ分かるように書いておきますね。

 

◆「うちの子(私)は発達障がいでしょうか」

 

回答:

発達障がいは、白黒の世界ではありません。イメージとしては、グラデーションのような世界です(下図)。

すべての人がそれぞれ異なる脳の特徴を持っており、一般的なタイプから珍しいタイプがあります。

当然ながら、一般的なタイプの人が大多数で、珍しいタイプの人は少数です。

一定の基準以上に珍しいタイプである場合は診断域となってきます。

ただ、診断されなかったからと言って、「発達特性がない」というわけではありません。

また、診断域の特性があるからといって、必ずしも診断されるわけでもありません。

 

 

 

 

 

◆「うちの子(私)は、いわゆる発達障がいのグレーゾーンでしょうか」

 

回答:

「グレー」というカテゴリーも診断名もありません。「グレーゾーン」を詳しく言うと、「発達特性はあるが、診断基準を満たさなかった」となると思いますが、ほぼすべての人に何らかの発達特性(脳の特性の違い)はある世界ですので、そうなると、人類ほぼ全員になってしまいます(笑)。

「グレーゾーン」と言うと、「一般的な脳の特性」に比べると、より「レアなタイプの特性」に近いというくらいのニュアンスだと思いますが、どこからどこまでがグレーなのかも分からないので、「グレー」という言葉自体に意味が感じられません・・・。

 

 

◆「ネットにある情報を見て症状をチェックしましたが、うちの子(私)にはあてはまるのはほとんどありません。だから、発達障がいではないのではないでしょうか。」

 

回答:

発達障がいの症状のチェックリストは、チェックを一般の方が行うのは実はけっこう難しいと思います。

 

例えば、自閉スペクトラム症(ASD)によく言われる「視線が合わない」という項目についてですが、この項目一つでも白黒つけるのはなかなか難しいでしょう。「うちの子(私)は視線は合わせられます」といわれる方もありますが、よく見ていくと、視線が合うのはほんの一瞬だったり、合っているものの、目を見開いたようにじーーーっと凝視しているお子さん(人)もいます。ASDに特有の視線の使い方というのは、「視線を合わせない」というだけではなく、「視線が合っていても、視線をコミュニケーションの一つとして使えているか」ということが判断基準であるため、合うか合わないかだけが判断基準ではないのです。

 

 

◆「うちの子(私)は、発達障がいではないと言われました/発達障がいと言われたことはありません。だから、発達障がいだとは思えません。」

 

回答:

発達障がいが幼少時に明らかになるお子さんもいれば、大人になるまで特に指摘される機会のなかった人もいます。なぜなら発達特性があるからといって、生活に特に困り感がなければ、「障がい」とする必要がないからです。

特に学校で勉強がよくできていて、集団生活には問題はなかったタイプのお子さん(人)は、大人になるまで何も指摘されないこともあります。

 

また、発達障がいの診断基準自体が非常にあいまいであるため、医者によって診断の線引きが異なる場合も多くあります。

しかし、上記のように、もともと白黒の世界ではないため、診断ラインを超えたと判断するのか、超えていないと判断するのかという判断の違いであって、「診断されていない」ことは「何もない」ということではありません。

 

 

◆「うちの子は、子どもの時から体の病気があります。その病気を診てもらっている小児科の先生には、発達障がいではないと言われています。だから、発達障がいではないと思います。」

 

回答:

「有名〇〇大学病院の小児科の権威の先生に診てもらって発達障がいではないと言われているので・・・」などと言われる保護者の方がいますが、あたり前ですが、医師の勤務先で診断が決まるわけではありません(笑)。

小児科にもサブスペシャリティがあり、小児科の先生であっても、発達障がいが専門でない限りは、よくご存知ない場合もあります。

また上記の質問の回答と同様に、どのラインで線引きするかの違いであって、発達特性が何もないというわけではないことも多くあります。

 

 

◆「最近、うちの子は、~~という行動はしなくなってきました。もう発達障がいではなくなったのではないでしょうか。」

 

回答:

発達障がいは生まれつきの特性であり、生涯に渡り、治ったり、良くなったりするというものではありません。

年令に応じて様々な形で現れるため、特定の行動がなくなったからといって「治った」というわけではありません。

 

 

◆「発達障がいの診断を受けなければならないのでしょうか」

 

回答:

私がこの質問によく答えているのは、「診断が何かの役に立つかどうかによる」ということです。

 

例えば、特別児童扶養手当や障害年金の申請や、特別支援学級への入級など、診断名自体が必要になる制度や仕組みがあります。

 

あるいは、教育機関や保護者、本人が自分の性格を知り、学校生活や社会生活などに役立たせていけるのであれば、診断の意味があると思います。

 

なお、特に注意欠如多動症(ADHD)に関しては、投薬治療があるため、薬の内服が必要な人はADHDの診断を受けることがあります。ただ、英国では投薬のためにはADHD診断は必須ですが、日本では診断はさておき、まず内服してみてから、という具合になってしまうこともあります。

 

ただ、「発達特性があるから、必ず診断しなければならない」というものではありません。

 

 

◆「HSC/HSPによくあてはまっています。発達障がいとは違うのではないでしょうか。」

 

回答:

人の言葉に敏感に反応し、強く共感してしまうというHSC/HSPの特徴は、自閉スペクトラム症(ASD)とは対極に見えることがあるかと思います。

しかし、これは私個人の見解ですが、HSC/HSPはASD特性の一部であると思っています。なぜなら、「強く共感してしまう」というのは実際にはその相手が感じている感情とは異なるからです。

例えばある人が悲しんでいるとして、HSC/HSPの人がそれを見てその10倍悲しんでしまうとすると、もともと悲しんでいた人からすると、「そこまで悲しんでない」状況になります。相手の気持ちを理解できているようで、実はその悲しみは相手の感情ではなく、自分の感情であるため、実際には捉えられていないという解釈もできると考えています。

 

なお、HSC/HSPの感覚過敏は、ASDの症状そのものです。

 

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このQ&A集は随時追加していきたいと思います。

(最終更新:R6.1.7)

 

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