嘲~あざわらうやまい~ / 紅蝉 | 安眠妨害水族館

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嘲~あざわらうやまい~/紅蝉


1. 自意識の豚
2. 潔癖症は嘔吐
3. 死して亡霊-影-
4. 片輪の恋-胎内回帰篇-
5. 這背蟲-改-

9月に先行的にリリースされ、その後限定店舗での委託販売が開始された紅蝉のネオシングル。
新体制となってからは、初の流通音源となりました。

Ba.井上刈、Gt.野間企が立て続けに脱退。
新ベーシストとして、井岡伊緒さんが加入して制作された本作ですが、野間さんのラスト音源という捉え方もできるのかな。
レコーディングには参加していたようで、"六弦とコヲラス"としてクレジットされています。

デジタル色を強く出したSE、「自意識の豚」でじっとりスタートしたと思ったら、焦燥感のある鍵盤の音色により緊迫感や不安感を急激に煽られる「潔癖症は嘔吐」に。
"吐きそう"というフレーズの連呼にしても、途中で織り込まれる"この世界は私に似合わない"の掛け合いにしても、とにかくインパクトが絶大。
そのうえ、サビでは彼らなりのキャッチーさも見せ、このジェットコースターのような展開にグッと心を掴まれてしまった。

続く「死して亡霊-影-」は、彼らのデジタル要素を、ダンサブルな方向に振り切ったナンバー。
紅蝉らしく、歌メロはおどろおどろしく気持ち悪さを残しているので、すんなりとポップ調になったわけではないのだけれど、ダークな世界観とはミスマッチにも思えるアレンジが面白く映ります。
挿入される台詞の部分など、テンションが高い楽曲だからこそ効果的になる演出もあり。

「片輪の恋-胎内回帰篇-」も同系統のアッパーチューン。
新鮮さがあったディスコ風のアプローチも、実は既に紅蝉の得意分野なのだよ、という意思表示だったりするのでしょうか。
最後の「這背蟲-改-」も含めて、再録ミニアルバムだった「嘘~いつわりのつくりもの~」と同じ流れでのクロージングとなるのだけれど、再々録によるパワーアップがはっきりとわかる。
ドロドロとおぞましい空気感をマイルドにすることなく、贅肉を削ぎ落して、骨太な補強を施したイメージ。
メンバーチェンジだけが要因ではないと思うが、見違えたというのが率直な感想でしたよ。

メインコンポーザーの阪本知さん、井上隆斗さんが残っているので、音楽性が大きく変わるわけではないだろうけれど、重要なメンバーが離籍となれば、当然不安もありました。
そんな中で、新曲と再録曲とを上手く組み合わせて、過去と未来を繋いでくれたな、と。
アクは少し薄まったけれど、バンドとしては必要だった変化であるような気もしますね。

本作では、阪本さんの楽曲のみで構成されていたこともあり、井上さんの楽曲も、どう進化しているのか聴いてみたい、という欲求も沸いてくる。
現時点のベストを出し切ったうえ、伸びしろも提示した1枚。

<過去の紅蝉に関するレビュー>
解~すべてをほどくもの~
翅~うつせみのうた~
心臓
腑~はらわたのおと~
痼~ひさしくなおらないやまい~
聖者の行進