二重想 / 慎一郎&杏太 | 安眠妨害水族館

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二重想/慎一郎&杏太


1. 積み木
2. 3月の雪
3. 涙日和
4. 同じ空

慎一郎&杏太の会場限定CD。
ホタル、ジュリィーと共に歩んできた彼ら。
Vo.慎一郎さんの引退により、一度は袂を分かちますが、まさかのカムバック&初音源のリリースとなりました。

収録されたのは、ホタル時代にデモバージョンのみ発表され、ほとんどライブでも演奏されずにいた「積み木」と、慎一郎&杏太としてのオリジナルナンバー3曲。
ライブでは、在籍していたバンドの楽曲をアコースティックバージョンでセルフカヴァーするスタイルが基本線なのですが、本作においては、"過去"ではなく"現在"伝えたいことをパッケージしたという印象です。
レコーディングやミックスダウン、マスタリング等には、盟友である悠希さんが全面的に協力しており、さすが、ツボを押さえた内容に仕上がっていると言えるでしょう。

「積み木」は、デモバージョンから歌詞が書き換えられ、メロディも追加されています。
もともとがアンプラグドCDに収録されていたこともあり、大きく変わったというよりは、正攻法に進化したといったところ。
早口で淡々と紡がれるBメロで、左右から囁きあうかのごとく交互に流れるようにしたり、終盤でサビとBメロを重ねたりと、用いられているギミックがいちいちハマっていて、更に好きな1曲になりました。
追加された大サビも、ドラマティックに盛り上がる演出となって、なんだかんだ、彼ららしい楽曲になったな、と。

続く「3月の雪」は、2人の共作となるミディアムチューン。
東日本大震災を被災地で迎えた慎一郎さんが、この記憶を風化させないようにと歌詞を書いたのだとか。
内容が内容だけに重苦しさがあるのも事実なのですが、説得力のある慎一郎さんのボーカルと、メリハリをつけて場面を切り替えていく杏太さんのアコースティックギターが、ぐいぐいと聞き手を引き込んでいきます。
音を止めての"君の命だ"は、ゾクっとするほどに強烈なインパクトを放っていました。
サビまでくると、美しく広がるメロディが待っていて、コーラスワークも秀逸。
この時期に聴くと、余計にグッとくるな。

「涙日和」は、杏太さんが作曲を手掛けた哀愁ナンバー。
もっともジュリィー時代の面影を感じられるのではないだろうか。
ノスタルジックなフレーズが切なく歌い上げられると、なんとも胸が締め付けられる。
とてもシンプルな構成のはずなのに、色々な演出方法があるものだと感心します。

最後は、慎一郎さんが復帰する際の心境をストレートに伝えた「同じ空」。
明るさ、ポップさがあって、どうしても暗い曲、ゆるい曲が多くなりがちな中で、空気をガラッと変える力がありますよね。
長らく第一線から離れていたとは思えない歌唱力、表現力。
気持ちを歌に込めて届けるこの曲は、クロージングに使うにはもってこいでした。

もっとインディーズクオリティの音質を想像していたけれど、予想をはるかに超える完成度で、嬉しい誤算。
こうなってくると、ホタルやジュリィーの名曲たちを、アコースティックアレンジで再現したアルバムなんてのも聴きたくなってきますが、悠希さんが長崎に移住してしまう状況下、次の音源制作は当分先になってしまうのでしょうか。

なお、歌詞カードの一部に不備があり、「3月の雪」の歌詞を改めて記載したジャケットカードが付属。
アートワークも差し替えられて、慎一郎さんが2011年3月11日の震災時に、現地で撮影した写真が使用されています。
歌詞の不備そのものはアクシデントではあるのだけれど、結果として、作品としてのメッセージ性が強まった気がするから不思議なもので。
流通していないのが惜しいくらいに1曲1曲が胸に響く、アコースティックの魅力が詰まった1枚でした。