出すときは一緒@新大久保QUARTER NOTE(2016.3.5) | 安眠妨害水族館

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オバンギャと初心者に優しいヴィジュアル系雑食レビューブログ

「悠希/慎一郎&杏太 ツーマンライブ 『出すときは一緒』」。
双方に関わりあったアコースティック作品が同日にリリースされるということで、実質的に、そのレコ発ライブとなるツーマンイベントとなるわけですが、見事、ソールドアウトとなりました。

以前、悠希さんのワンマンに慎一郎&杏太がO.Aとして参加したのも記憶に新しいところ。
ただし、今回はツーマンということで、同じ会場、同じメンツではあるものの、少し意味合いが変わってきます。
当初の活動形態もあってか、なんとなくセッション的なユニットというイメージがあった慎一郎&杏太ですが、遂にオリジナル音源が完成。
これにより、いよいよアイデンティティーが確立したと言いましょうか。
悠希さん曰く"主人と下僕"の関係性は変わらないにしても、アーティストとして、対等に戦えるところまでは来たのだな、と感慨深くなります。


慎一郎&杏太

1. 雨のち部屋
2. サクラチル
3. サクラ心中
4. ストロボ
5. 木漏れ陽
6. 積み木
7. 3月の雪
8. 涙日和
9. 同じ空
10. 西口改札ラプソディ
11. あれから
12. たからもの。

先行は、慎一郎&杏太。
1曲目から、アコースティックでは初披露となる「雨のち部屋」でオーディエンスを驚かせます。
先日ホタルの1日復活を発表したばかりのタイミングで、ホタルで最初に音源化された楽曲を持ってくるとは。

サプライズにより生み出された緊張感は、その後も緩みません。
「サクラチル」と「サクラ心中」を隙間なく演奏し、圧倒的な表現力でぐっと会場を引き込むと、こちらも同じ物語を男女それぞれの視点から切り取った「ストロボ」、「木漏れ陽」のコンボを繰り出す。
どちらの楽曲群も、曲の繋がり部分で男女が入れ替わることになるのですが、そのタイミングで明らかに慎一郎さんの表現スイッチが入るのがわかるから面白いですよね。
男性から女性に、女性から男性に。
歌声だけでなく、顔つきまで歌っている登場人物に寄せてしまうから恐ろしい。
杏太さん的には、ここが一番の山場だったようで、終わった後の安堵感が会場にも伝わってくるようでした。
まぁ、2曲をまとめてギター一本で再現するのだから、神経質になるのは当然でしょう。

中盤からは、CDの収録曲4曲を、曲順そのままで演奏。
ホタルにてデモバージョンが音源化されたときから大好きだったものの、完成すら叶わなかった「積み木」が、ここにきてリードトラックとしてCD化されるのだから夢のようである。
CDでは慎一郎さんがすべてのボーカルトラックを歌い上げているのですが、ライブでは、杏太さんとのツインボーカル的に声が重なり合っていくので、より臨場感が生まれるというか。
もともとがアンプラグド盤に収録されていたデモ曲という前提も手伝って、彼らだけで演奏されることによる違和感も少ないのですよ。
もちろん、アレンジされた既存曲だけでなく、ライブで頻繁に演奏されてきた新曲3曲も、より洗練されて同時にパッケージ。
ひとつひとつのタイプが異なるが、どれも彼ららしくて見入ってしまいました。

長丁場であることも踏まえ、クラップハンドでノリの良さを与えたのが「西口改札ラプソディ」。
「あれから」、「たからもの。」と、クローザーとして控えている代表曲の前にクッションを挟む役割としても効いていたし、彼らのスタイルの幅を広げるきっかけになりそうです。
ラストの2曲は言わずもがな。
定番ばかりのライブは面白くないけれど、定番だからこそ外すと締まらない。
その中で、確実にオーディエンスが聴きたいラインナップを把握して、カードとして残しておくセットリストの組み方は、まさに絶妙としか言いようがありません。

暴れたりフリをしたりするようなバンドではない。
音楽性も編成もヴィジュアル系シーンの王道であるはずもない慎一郎&杏太ですので、ノリ方には、バラつきがあったかな。
これがオーディエンス側まで馴染んでくると、間違いなくもうひとつ進化するはず。
もっとも、初見と思われるオーディエンスは、慎一郎さんの表情の切り替えに圧倒されていたと思われますが。
個人的には、全体的に杏太さんのコーラスパートが全編的に強化されていたのも嬉しかったですね。


悠希

1. 残念ながら生きている
2. 兎に角
3. 代用品
4. 吐息
5. 残念ながら生きている
6. 台無し
7. 流星
8. 失脚
9. 騎士

未音源化の楽曲も溜まってきたのだが、それらがとても好み。
前回ワンマンで聴いたときは輪郭を掴むのみでしたが、慣れてくると再発見もあるもので。

アコースティックで聴かせる対バン相手を意識したのか、攻撃的なスタートを切ったように思います。
「残念ながら生きている」では、ギターを抱えながらも拳を打ち付けるなど鬼気迫るパフォーマンスで、オーディエンスを圧倒。
レトロでダークな世界観でアコースティックのレコ発ライブとは思えないほどのスタートダッシュを決めてきました。

と言いつつ、慎一郎さんとのツーマンとなれば、そりゃMCが止まらない。
いきなりライブハウスへの不満を吐き出したと思えば、慎一郎さんのMCでの発言について時間を使って文句をぶつける、ある意味での平常運転。
ユニット・カスのファンからしてみれば、この平常運転が戻ってきたのも感動モノだったりするのですが、それはそれとして、ライブの内容が霞むくらいに喋り倒していましたよ。
袖から慎一郎さんからのツッコミの声が入り、更に無駄話に展開していくことですら、彼らにとっては様式美なのである。

そんなわけで、何故か漂っているという綿菓子の匂いに集中力を乱されたのか、楽屋で喋りすぎて喉を消耗してしまったからか、「流星」あたりから、かなり高音が辛そうだったかな。
"もっと本気を見せてほしい"と1曲目の「残念ながら生きている」を再度演奏するなど、突発的な曲目が追加される嬉しいサプライズはあったものの、安定感には欠いていたのも事実でしょう。
「流星」がとても好きなだけに、コンディションが整っているときに聴きたかったな、と。

それでも、ラストまでの盛り上がりに向けて、出来ること出来ないことを割り切ってパフォーマンスに振り分けていくあたりは、さすがのベテランといったところ。
結果的に楽しかったのは変わりないですし、中途半端に引きずられるよりは気持ちが良い。
曲数が少な目だったのは、その後に色々とイベントを用意していたからだろうけれど、無駄がなく引き締まったセットリストは、現在の彼の魅力をしっかり伝えきっていたのでは。

長崎に移住することを決意したようだけれど、しばらくライブ活動はなくなってしまうのだろうか。
せっかくソロとしての楽曲が良い方向に進み始めていただけに、仕方ないのだが惜しい気はしてしまいます。


悠希(Acoustic)

1. 変身
2. 切り札(with 慎一郎)
3. 哀愁色のカーテン(with 慎一郎)

実質的にアンコールとなるのでしょうか。
ケッチさんと二人で登場し、アコースティックバージョンで楽曲を披露するというパートをここに。

率直に言って、セットリストに物足りなさはある。
「変身」は、それこそ同じメンツで挑んだ「9月のワンマンライブ」にて演奏しているし、喉が限界だから、という前フリで慎一郎さんを呼び込んで演奏された「切り札」は、今回のアルバムの収録曲ではないわけですよ。
そうなってくると「哀愁色のカーテン」が披露されるのも必然だし、サプライズがなかったというか、ボリュームが足りないというか。
アルバムの中から、この日に初披露となるアレンジで!というのが、やっぱり欲しかったなぁ。
または、ネタとしてMCで話していた通り、悠希さんが「3月の雪」を本当に歌うとかね。

もっとも、正々堂々、悠希さんと慎一郎さんのクロストークが聞ける場面でもあったし、演奏された楽曲のひとつひとつはとても良かったです。
アングラな「変身」がアコースティックにここまで馴染むとは思っていなかったし、もはや慎一郎節に聞こえてしまうほど歌い込まれた「切り札」、ツインボーカルのスペシャル感がたとえ何度聴いてもたまらない「哀愁色のカーテン」と、初見だったら涙腺持っていかれていたかもしれない仕上がり。
楽屋で温存していたようには思えませんが、悠希さんの喉の調子も、心なしか回復していたような。


ちなみに、その後は鑑賞会と称して、悠希さんの「ミルク」、慎一郎&杏太の「3月の雪」の試聴をメンバーとともに。
ここまで集中してアコースティック音源を爆音で聴くという機会はそうそうないので、レコーディング中のこぼれ話も聴ける美味しさも含めて面白かったです。
その分、あと数曲アコースティックで聴きたかった、という気持ちもなかったわけではないけれど、アーティスト側のエゴもわからないでもない。

17:30スタートだったので、もっとさらっと終わるのかなと思ったら、そんなことはなく。
3時間半はやっていたのではないかと。
曲数だけを見たらそんなにでもないのだけれど、もう、時間がトークにがっつり割かれていて、イベントの総括がMCの内容になってしまうくらいに喋っていましたからね。
期待通り、期待以上。
楽しいツーマンライブでした。
最後は月並みになってしまうけれど、それしか言葉が出てこないのです。