国家主義 / 梟 | 安眠妨害水族館

安眠妨害水族館

オバンギャと初心者に優しいヴィジュアル系雑食レビューブログ

国家主義/梟


1.国家主義
2.Saddam
3.祇園の夢
4.Sieg Heil
5.行進曲
6.臣民の道

新潟バンド、梟による1stミニアルバム。
解散ライブにて販売され、現在はオフィシャル通販にて購入可能。

このバンド、2013年8月に解散しており、本作についても、ほとんど知られることなく埋もれてしまうはずでした。
しかしながら、2014年に入ってから、徐々に口コミで話題になっていく。
なぜならば、通信販売を利用しても、CD代どころか、送料すら請求されないから。
そう、実質的には、無料配布だったのですよ。

これは、音源の価格設定は、バンドとしての活動を支えるための資金を集めることを目的としていたものであり、活動を停止した今、その必要が失われたからとのこと。
表向きには、普通に料金を請求するような書き方となっていたため、解散直後に大きく話題になることはなかったのですが、利用者がじわじわとその噂を拡散させていったことにより、発売より実に半年近く経ってから話題になったようです。
宣伝目的や金儲けではなく、単純に楽曲を聴いてもらいたいというバンド側の気持ちが伝わるのも好印象でした。

なお、現在では、影響が大きくなりすぎたせいで、追加生産等のコストが必要になった様子。
無料配布期間は終了しているのでご注意を。
ある程度知名度が上がったのかという嬉しさと、それに伴う寂しさが入り混じりますな。

さて、肝心の内容ですが、重さのある和風ロック。
湿り気のある陰鬱な空気が流れるドロっとした雰囲気があります。
和風ホラーテイストというと伝わりやすい気もするのだが、少し語弊がある。
戦時中の日本をテーマにしているところがあり、ホラーというよりも、もっとリアルな恐怖や痛みを歌いたいという意図があるからかもしれないな。

「国家主義」は、タイトル的に過激で攻撃性のある楽曲かと思いきや、ドロドロとした不気味さを押し出したナンバー。
お経のようなメロディと、じりじりと堪えるように進行していくリズムには、彼らの表現したいテーマが詰まっているよう。
1曲目らしい楽曲ではない分、世界観が濃くなっていきます。
続く、「Saddam」は、本作中、唯一Vo.東條さん以外のメンバーが作曲。
ラウド感が強まって、デスヴォイスが増えてくるのは、そういう理由もあるのだろうか。
ところどころ、仏教テイストを入れてくるのが、個性といったところ。

「祇園の夢」は、淡々としたミディアムチューン。
「鬼葬」の頃のDir en greyを彷彿とさせるな。
音質はあまり良くないのが正直なところではあるが、歌声は曲調にハマっているかと。
外国語の演説からスタートする「Sieg Heil」では、再び激しさが出てきます。
サビで、テンポを落としメロディアスにすることで、曲の和風要素を残す工夫があるのですが、掛け合い中心で畳み掛ける展開にしてみても面白かったでしょうか。
せっかく、唯一の日本語ではない楽曲なわけだし。

文字通り、軍の更新のような「行進曲」はSE。
これを噛ませて、ラストの「臣民の道」へ繋げる構成です。
この楽曲が、本作中でもっともメロディアスナンバー。
世界観を重視して、ここまで作りこんできたといったイメージがあっただけに、最後の最後で歌モノとして振り切れてくれるのは、個人的にはありがたい。
邪道のようで、アルバムが締まるのですよね。
ミディアム調ですが、このメロディであれば、もっと疾走感があっても、このシーンにおいては評価が高まったのかも。

期待値よりも、満足感のある作品。
都内や名古屋を拠点にしていたバンドであれば、現役時代からもう少し知名度を上げることが出来ていただろうな、と思ってしまう。
マイナーっぽさ、B級っぽさが拭えませんが、あと一皮剥ければ、という惜しさがありますかね。
一言で言えば、男受けしそう。

無料ではなくなったとはいえ、5曲+SEで1,000円と、コスパはまったく悪くない。
冒頭で、無料配布のおかげで話題になったと書いたものの、一部訂正。
きっかけはそれであっても、聴いてみたリスナーたちが、なんだかんだで気に入っているからこそ、口コミで広がったはず。
地味ではあるし、かなり荒削りなのですが、どこか気になる音を奏でるバンドでした。