マゾヒストレッドサーカス / Lycaon | 安眠妨害水族館

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マゾヒストレッドサーカス/Lycaon

 


1. マゾヒストレッドサーカス
2. 覚醒
3. Psychedelic Jelly
4. OVER DOSE
5. 霊猫香とマゾヒスト
6. gossip
7. 黒のダチュラ
8. TABOO
9. JI・RE・N・MA
10. 雨音の輪舞曲

 

自主レーベルであるVOGUE Entertainmentからのリリースとなった、lycaonのミニアルバム。
初回盤はボックス使用とのことですが500枚を予約完売。
通常盤は、CDの収録内容は変わらず、3,000枚限定とのこと。

本作、ミニアルバムであるため、価格は2,600円。
しかしながら、SEを含むとはいえ、全10曲と、実質的にはフルサイズ。
「Psychedelic Jelly」のMVが収録されたDVDまでついているのだから、お得感満載です。

あえてミニアルバムと銘打ったのは、もともと7曲を収録予定だった、というのはあるにしても、実験作的な要素が強いからかな、とも思ったり。
雰囲気作りとして挿入された雰囲気モノ、「霊猫香とマゾヒスト」と、語りが中心の構成なのに、激しさを感じさせる「TABOO」。
SEらしいSEは「マゾヒストレッドサーカス」のみだけなのですが、このふたつのショートナンバーも、同じく仕切り直しの役割を果たしており、その他の7曲との緩衝材となっているイメージ。
SEでお茶を濁すのではなく、しっかりと世界観が意識された繋ぎのアイディアは、ディープでドラマティックに、作品を演出していきます。

第一部は、ライブ感がある構成。
「覚醒」、「Psychedelic Jelly」と、王道的なアッパーチューンを畳み掛けて、エフェクトボイスと攻撃的な演奏でハードさを打ち出す「OVER DOSE」で爆発させる。
高揚感のある展開に、ゾクゾクとさせられる。

第二部は、彼らのコアな面を凝縮したとでも言いましょうか。
ライブの1曲目として演奏されることも多い、「霊猫香とマゾヒスト」でどっぷりと濃い世界観を作り上げると、メロディアスでアダルティーな「gossip」に。
前半の楽曲のほうが、現代風といったところではあるのだけれど、こういう楽曲のほうが、彼らにとってはキラーチューンになるのかもしれません。

そして、インパクトが大きいのが、「黒のダチュラ」。
ワンフレーズの繰り返しではあるのだけれど、演奏パターンを次々と変え、まったくダレない展開に仕上げてきた。
クラシカルなゴシック要素が、ダークなサウンドと絡み合って、中毒性が高い。
好き嫌いは別として、耳に残って離れなくなること請け合いですよ。

「TABOO」からは、新たな引き出しを見せ付ける第三部。
艶っぽい台詞と、ツタツタ迫るサウンドが、エロティシズムとバイオレンスを表現。
メロディでも、シャウトでも、デスヴォイスでもない。
こういう狂気の表現もあるのかとリスナーを驚かせます。

続く、「JI・RE・N・MA」は、80年代歌謡曲風のナンバー。
遊び心が多いものの、彼らのキャラには案外ハマっているから面白い。
ラストの「雨音の輪舞曲」は、モノクロ映画のエンディングのような、レトロなバラード。
序盤と終盤で、ここまで印象が変わるアルバムがあっただろうか、というような雰囲気の違いがあるのですが、そこに至るまでの流れ自然で、前半は良かったけれど、後半はどうか、といった類の心配をするのは無粋というもの。
場面転換も含めて、10曲でひとつの組曲とすら思えてしまいます。

アプローチがマニアックになってきた感があり、とっつきにくさは増した気はする。
ただし、それがマイナスには作用しているわけではなく、よくあるバンドから、唯一無二のバンドへと、遂に進化を遂げ始めたな、と。
噛んで味が出てきたら、抜け出せなくなるぞ、これは。

なんだかんだで、"名古屋系バンド"としての風格が出てきましたね。
ダークで、ハードで、マニアックという、10数年前の名古屋系の血統が感じられる。
最近は、ラウドで硬派、というのが名古屋系のキーワードとして定着しているだけに、再びこの定義を覆し、時代を作ってしまうほどの活躍を見せてほしいものです。

<過去のLycaonに関するレビュー>
薔薇~Rose~
嘘と女と『 』