PRELUDE / V.A. | 安眠妨害水族館

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PRELUDE/V.A.
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時代を感じるエナメル衣装に、ダークな楽曲。
90年代後半のコテコテ文化を築いた立役者でもあるMatinaレーベルのオムニバス作品。
レーベルの代表者はKISAKIさんということで、UNDER CODE PRODUCTIONの前身レーベルとも言えるのかもしれません。
1999年の作品。


1.黒装束ノ調ベ / Madeth gray'll

発狂ダークナンバーをやらせたら天下一品、Madeth gray'llのデモテープからの再録曲です。
1曲目から、とっつきやすいとは言えない楽曲を持ってきたわけですが、Matinaらしいと言えば、Matinaらしい。
ミディアムテンポで進行するため、全体的にはドロドロとしたイメージになっているのですが、要所要所でツタツタと激しく掻き回すことで、非常にカオスな雰囲気に。
グロテスクな歌詞だけでなく、音の重ね方や、コーラスの入れ方など、不気味な演出へのこだわりが、至る所に垣間見ることができます。
彼らを見ると、世界観の作り方は、上手い下手だけではないのだなぁ、と痛感させられるなぁ。


2.ポルノグラフィ / AZALEA

このタイトルは、どこぞの邦ロックバンドを意識しているのかしら。
ミディアムテンポの独特なリズムで、不思議な味わいがありますね。
路地裏感のある、レトロなナンバー。
サビのインパクトが弱いのが、オムニバスとしては損をしている部分があるのですが、じわりじわりと中毒になっていくタイプの楽曲でしょうか。


3.鎖縛 / Mist of Rouge

ツタツタ、発狂。
このバンドを聞けばその時代の流行がわかるってくらい周りに音楽性を流されっぱなしだったMist of Rouge。
この曲についても、サビがそのまんま、La:Sadie'sなのですよね。
Dir en grey全盛期に、これをやってしまったら、評価も下がるよなぁ、という。
KISAKIさんも、何か言ったりしなかったのだろうか。
むしろ、楽曲提供をしたような気分なのだろうか。


4.Silent moon / DESCRIBE

激しさよりも、メロディアスさで勝負していたDESCRIBE。
ピアノとボーカルのソロで始まって、バンド演奏、またピアノに戻って語りが入る・・・
方向性はよかったのですが、クラシカルで幻想的な構成にこだわりすぎて、ややダレてしまいます。
もっとシンプルにするか、メロディを増やすか、工夫がほしかった。
ドラマティックな演出にするためのアレンジ力があれば面白かったのにな。


5.Suicide・・・ / オルゴール

クラシカルなフレーズと、ダークな歌詞。
当時は新人バンドという位置づけながら、メロディアスさとハードさを共存させ、存在感を示していました。
ボーカルも相応に安定しており、特にBメロの歌い上げが気持ちいいです。
ドラムが打ち込みなのが残念。
このバンドは、もっと長く活動してほしかったですな。


6.Tears like a snow / NADIA

ソフビ系のバンドなのでしょうか。
このバンドについては、あまり予備知識がありません。
歌い方は確かにV系敵なのですが、この中では、かなり浮いてしまっているかな。
透明感があってメロディアス。
曲は悪くないのですが、参加するCDが良くなかったかなぁ、と。


7.久遠の月 / Zephyr

Matina所属の白系バンド、Zephyr。
NADIAを挟んだこともあってか、違和感なく滑り込めたのがラッキーだったか。
ストレートな疾走ロックで、刹那的な衝動性が気持ちよいです。
演奏は荒削りですが、各パートにも魅せ場があり、キメなども効果的。
若手バンドを発掘するという、オムニバスの醍醐味を実感したのが、このバンドだったり。


8.BAD BOY ∀ / ∀nti Feminism

THE DEAD P☆P STARSのKENZIさんがボーカルを務めるセッションバンド。
ゲスト扱いでの収録。
KISAKIさんも、ベースで参加しています。
音楽性は、アナーキストの匂いがする暴れ系パンク。
この中では浮くし、古臭さは隠せないかな。
ボーナス的な位置づけでしょうし、クオリティだけを求めてはいけないのでしょうけれど。


9.片翼の××日記 / Eze:quL

BFNのラメさんが所属していたエゼキュエル。
書籍に見える、とのこだわりから、CDを作らずデモテープばかりをリリースするのが印象的でした。
サビ以外はエフェクトボイスでの語りというシンプルな構成ではあるのですが、ドラマティックになるような工夫は見られる。
ギターリフが妙に耳に残るのだよなぁ。
風のサンプリング音なども効果的に使い、ファンタジックな世界観を演出しています。
まぁ、雰囲気モノですね。


10.症候群~シンドローム~ / DAS:VASSER

全体的には、ハードな疾走曲なのですが、サビではミディアムテンポになったり、キメが多くなったり、一筋縄ではいかない楽曲。
ボーカルの安定感のなさで有名になってしまったバンドですが、これは、そこまで外している印象はないでしょうかね。
ただ、わざとなのか、苦しそうに歌う場面があるのが引っかかる。
がなり声で歌いたかったのか、本当に声が出なかったのか。
最後、咳き込んでるし・・・


11.SABOTAGE / vellaDonna

ジャパメタからの影響を継承するvellaDonna。
音楽的にも、上半身裸というアー写にも、やや古臭さは出てしまいますが、硬派さがあって格好良い。
展開に少し強引さがあるのがもったいないですな。
面白さには欠けるけれど、見せ場はしっかり作る。
中盤の畳み掛けるようなシャウトの掛け合いは、圧巻でした。


12.「ASK」 / Vice†risk

オルゴールの音からドラムがドコドコ入ってきて、あとはひたすら疾走するという構成の、メロディアスな楽曲。
3本同時リリースのデモテープ、全タイトルのカップリングに収録されたいわく付きの楽曲ですが、それだけ、代表曲だということなのでしょう。
コテコテの王道が多いMatinaの中でも、最もど真ん中を走っていくような音楽性。
ハードな演奏と、それに引き摺られない甘ったるいボーカルラインのバランスが絶妙です。
声が細くて聴く人を選びそうな要素はありますが、好きな人にはたまらないのでは。


13.機械仕掛けの舞踏会 / Due'le quartz

ゲストとして参加していたDue'le quartz。
インパクト重視の楽曲が多かった彼らとしては、意外性のあるスルメ系の楽曲で勝負してきたな、といった印象。
キャッチーではないのですが、リズムが独特で、一度耳に馴染んでしまうと離れなくなる。
課題であった歌唱力も、一定のラインで淡々と展開される、起伏に乏しい構成も手伝ってか、あまり気にならないですね。
爆発力はないが、中毒性のある楽曲です。


14.SAD MASK / Syandrome

後に浅葱さんが加入後にも同タイトルでリアレンジされることになりますが、ここで収録されているのは、初代ボーカルの龍夜さんバージョン。
ギター隊は、DのRuizaさんと、MERRYの健一さんなので、今考えると豪華な布陣ですな。
綺麗なバラードなので、正直、KISAKIプロジェクトで樹威さんにこれを歌ってほしかった。
龍夜さんは声が細すぎて、サビの一番の盛り上がりが歌いきれてません。
この後に別のオムニバスで再録された際、そこだけ女性ボーカルに歌わせるっていう禁じ手に出てしまうくらいですからねぇ。
とはいえ、やはり曲が好き、特に歌メロが好きなので、第二期バージョンよりこのアレンジが好きだったり。
長すぎるきらいはありますが、ツボは押さえたバラードです。


Matinaレーベルのオムニバスとしては珍しく、新曲・新録の楽曲が中心なのがありがたかった作品。
Madeth gray'll、Due'le quartz、Syandromeなどの既に知名度があったバンドを目当てに買って、新人を発掘する。
そんな楽しみは、このアルバムで覚えたような気がします。
オルゴール、Zephyrはこれを聴いて音源を買うようになりましたし、若手を売り出すには、ちょうど良いパッケージでしたよね。

ちなみに、その後もPRELUDEシリーズは発売されるのですが、どのバンドも既発表曲の使い回しばかりになってしまいます。
本作でしか聴けない楽曲が多いという意味では、シリーズ中、もっともおススメな一枚。