痼~ひさしくなおらないやまい~ / 紅蝉 | 安眠妨害水族館

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痼~ひさしくなおらないやまい~/紅蝉
 

1.希釈された呼吸音と、始まりの終わり。
2.此の世の果て
3.月蝕楼
4.よるなくとり(album ver.1.75)
5.見世物小屋の雛
6.半神
7.―#3
8.ひさしくなおらないやまい

関西で活動する白塗りバンド、紅蝉。
彼らにとっては、初の流通作品ということになるのでしょうか。

内容としては、相変わらずのノイズを取り入れたアングラ志向。
SEを除けば、半数が再録曲ということになりますが、これまでの入手方法が限定的だったことを考えれば、代表曲を改めてパッケージしていくのは自然であるとも捉えられます。

異国的な音階と、機械音が重なり、そこにぶつぶつと語りや笑い声が混ざっていく「希釈された呼吸音と、始まりの終わり。」を皮切りに、ドロドロと怨念めいた楽曲たちが押し寄せる。
歌モノとしては、会場限定シングルとして発表された「此の世の果て」でスタート。
本作中、もっとも勢いが感じられますね。
バンドサウンドがメインとなっているはずなのに、妙に耳に残る打ち込みフレーズの気持ち悪さもあって、癖になります。

「月蝕楼」や、「よるなくとり」もアッパーチューン。
スピード感を大事にしながら、ストレートに終わらせないマニアックさが盛り込まれています。
「よるなくとり」については、シングルバージョンよりも打ち込みが際立っているような構成にリアレンジされていて、より聴きにくさを増した形。
せっかく王道系の楽曲を作っても、一般受けをまったく気にせずに難解に作り変えてしまうあたりは、ある意味ロック精神が強いというか、コアなファンが喜びそうなギミックだな、と。
その分、爆発的に売れることはないのだろうけど、アングラ界隈でのカリスマとなるポテンシャルは十分でしょう。

「見世物小屋の雛」は、不気味なSE+語り。
勢いで走り続けた前半の流れを、後半の流れに繋げるためにアクセントを加える役割を担っています。
続く「半神」は、デジタルな音使いに、エフェクトバリバリのボーカルが絡まっていく、彼らなりのダンスロック。
途中で電話のコール音などが、楽器のように使われているのが面白い。
もっとも、声についてもほとんど楽器化してしまっているので、歌モノではあるのだけれど、SE的な雰囲気も持っていました。

砂嵐のノイズ「―#3」を経て、ラストはアルバムタイトルでもある「ひさしくなおらないやまい」。
これはびっくり。
打ち込みも使われているものの、改めてバンドサウンドにスポットを当てたバラードに仕上がっているではないですか。
特に難解にするわけでもなく、クリアなイメージすら与える壮大な展開。
こういう引き出しも持っているのですね。

もっとぐちゃぐちゃっとしているのかな、と思ったら、案外アルバムらしい流れになっていました。
もっとドゥーム・メタルな感じに行くのだろうと勝手に想像していたのだけれど、V系サウンドをベースに、ノイズを加えて個性的にした路線を継続。
前半に、こんなに飛ばしてくるとは嬉しい誤算だったな。

ボーカルの癖が強くて聴き苦しさはあるのだけれど、この音楽性だったら気にならなくなってきた。
3月には、早くも次のミニアルバム「嘘~いつわりのつくりもの~」がリリース予定とのこと。
こちらは、完全に再録曲で構成された内容になるようですので、過去の楽曲がどう進化するか、楽しみに待っていようと思います。

<過去の紅蝉に関するレビュー>
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