Slowly But Surely / GalapagosS | 安眠妨害水族館

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Slowly But Surely/GalapagosS
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1. さらば青春の光
2. 奇跡な僕ら
3. 世界が君を待っている
4. バカなので
5. カリユガに咲く花
6. アンドロイドは電子意識で夢を見るか?
7. それから

FLOPPYの小林写楽(Vo&Gt)、東京ヒーローズのゴキミ(Ba)、ex-メトロノームの新太郎(Dr)という編成のGalapagosS。
彼らにとって、通算で3枚目となるアルバム作品です。

写楽さんらしい、チープなピコピコサウンドは、もはや伝統芸。
そこに、シンプルなスリーピースバンドの役割分担が、バンドとしての勢いをもたらしている。
本作を、通して聴いてみたときに感じたのは、ピコピコの中に潜む、パンクの精神でした。

「バカなので」のように、コンピューターミュージックに、少しおちゃらけた歌詞と、可愛げのあるメロディを乗せた、テンプレート通りのピコピコ系チューンもあるにはある。
しかしながら、全体観として受ける印象は、生き急ぐような衝動性。
前作では、「シリアスなピコピコ」という感想を持ったのですが、本作は、そこにエネルギッシュなパワーが重なり、「エモーショナルなピコピコ」といったところにまで、高められているような気がします。

前半は、フォーマットの面でパンクを志向。
「さらば青春の光」は、ダンサブルなアレンジを取り入れ、テクノ要素も強まっているものの、Bメロでの反骨的な掛け合いは、写楽さんの他のユニットでは見られない、男らしさに溢れている。
エフェクトをかけて加工しているボーカルに、こんなダンス・パンクが重なる面白さ。
1曲目から、彼らの持ち味を、存分に発揮しているといったところです。

「奇跡な僕ら」は、爽やかに抜けるような音作りが特徴。
少しテンポを落として、ポップ感が増していますが、シンプルなメロディは、ストレートにメッセージを乗せる手法としては、十分有効でしょうか。
続く、「世界が君を待っている」では、ピアノと歌というイントロから、バンドサウンドでアッパーに開けていく展開。
本作中、もっともわかりやすく"パンク"をやっているナンバーなのではないかと。
ボイスエフェクトがなければ、ジャンルとしては、問題なく青春パンクにカテゴライズできそうな。

そして、クライマックスの後半戦。
前述の「バカなので」を、転換のタイミングでのアクセントとして使用すると、切なく疾走感を持たせた、歌モノパンクへと変貌していきます。

電子音を重ねながらも、しっかりとしたバンドサウンドが、アグレッシブさを際立たせる「カリユガに咲く花」。
これは、少しダウナーな空気を持ちつつも、コーラスワークを駆使し、ドラマティックに仕上げました。
Aメロでは、テンションを低めに歌っていた写楽さんが、サビまで行くと、何かに気付いたかのように、トーンを変えて切なく歌い上げる表現の使い分けが秀逸。

「アンドロイドは電子意識で夢を見るか?」も、疾走メロディアスナンバー。
エフェクトが強めなので好みは分けそうですが、全体的な構成や、ストレートに駆け抜ける展開は、王道V系好きにとって、もっとも耳馴染みが良いのではないでしょうか。
他の楽曲に比べて、打ち込みも、チープな電子音ベースではなく、壮大なシンセ風に味付けしているのも、変化を付ける意味で効いています。

ラストの「それから」は、前半のフォーマットとしてのパンクサウンドと、後半のエモーショナルな表現を融合させた、集大成的な楽曲。
アグレッシブなリズム隊が、ひたすらテンポを上げて、パンキッシュな雰囲気を強めようとすると、一方でピコピコ面での見せ場も用意されている。
最終的には、ツタツタとした疾走感の中に、電子音が絶妙に絡まって、これぞ、GalapagosSの目指すべきサウンドに到達します。

写楽さんにしても、ゴキミさんも、複数のユニットをこなすマルチプレイヤー。
どのユニットにおいても、ある程度の一貫性を見せつつ、コンセプトがはっきりしているのは好感が持てるところ。
ピコピコ・パンクという、ありそうでなかった新鮮なサウンドは、もっと熟成させれば、大衆性を帯びそうなポテンシャルを秘めている。
メロディはわかりやすい、テクノのお洒落なサウンドもパッケージ、ピコピコのチープさで遊び心も充実しています。
あっさり流して聴いてしまえば、いつもの写楽さん、というイメージを抱くかもしれませんが、バンドサウンドにも耳を傾けてほしい一枚。

<過去のGalapagosSに関するレビュー>
Black including all