前回からの続きで五臓の働きについて述べます。まずは、「肺」です。
肺という働きの代表的なものは、天の清気を取り入れて濁気を出すとされています。これは、現代科学で育った私たちにも、清気を酸素に、濁気を二酸化炭素に置き換えればすぐに理解できますね。
そこで、さらに一歩、東洋医学らしい世界に踏み込んでみましょう。東洋医学では、肺という働きによって取り入れた天の清気と、脾という働きによって取り入れた地の気が合わさって、気血水が生まれると考えます。気血水という概念については、また別途、書きたいと思っていますが、今はいずれも身体を動かすエネルギーという捉え方をしたいと思います。
我々は食べ物から日々の活動の燃料(地の気)を取り入れていますが、それが酸素(天の気)と結びついてエネルギー(気血水)となるということです。これも、燃料を燃やすのに酸素が不可欠であるというよく知られた事実に照らせば納得できますね。
この気血水のうち、気(衛気)と水(津液)は肺の働きによって全身に送られます。全身に水を送るという表現の中には、身体の隅々に水を届けるということに加え、水を体の中心部から体表に向かって送り出すという意味も含まれます。
つまり、発汗です。
肺は皮毛を取り仕切っているとされ、感覚器から得られる情報によって無意識的に臓器や器官の働きを調節します。毛穴の開閉を行って発汗したり、体温調節をしたりするのはその一例といえます。そのほか、皮膚のきめ細かさも肺の働きによるものとされています。
そして、肺の状態は鼻に現れるとされています。
最後は「腎」です。
腎は、生命の根源に深くかかわる働きです。
生命の誕生において、両親から受け継いだ「先天の精」は腎に格納され、少しずつ原気に姿を変えて生涯をかけて消費されていきます。ここでいう「精」とは、生命力と成長、生殖の根源で、原気は臍下丹田に集まる活力の元となる気のことで、三焦の原気と呼ばれたりします。武道などで、臍の下三寸のところ(丹田)に意識や力を集中するというのは、こうした考えがあるのかもしれませんね。
そして、先天の精が尽きる時、命も終わりを迎えます。ただし、我々は先天の精だけではなく、脾の働きによって飲食物から取り込んだ「後天の精」も同時に利用して生命を維持しています。
その他の腎の働きとしては、水を作りだし全身の水分代謝をコントロールすること、骨をつかさどること、身体の芯として全身がバラバラにならないように凝集し引き付けることなどが挙げられます。
水分代謝については、腎臓が尿を作り出すという一般常識からなんとなく想像できますが、東洋医学ではもっと広範に、水は脾と肺によって生成され、肺によって全身に送られ、腎は全身を巡る水をコントロールする役目を持つとされています。
骨をつかさどることと、凝集し引き付けることについては、地球の中心部にあるコアが物質を引き付ける力、つまり重力を生み出していることをイメージすると理解しやすいと思います。骨は身体の最も深いところにあって身体を支えています。身体の中心に向かって身体各所が引き付けられることによって体形が維持されています。面白いのは、呼吸における吸気も、この引き付ける力によって行われていると考える点です。
東洋医学では、腎の状態は髪に現れるとされ、その他にも耳や二陰(性器と肛門)にも影響があるとされます。そのため、加齢による腎の衰えで腰が曲がったり、脱毛や白髪になったり、歯が弱ったり、耳が遠くなったりといったことが起こると説明されています。
以上、前回と今回で、東洋医学がどのように人体の働きをみているかという点について、説明を試みました。
我々の命は、両親から受け継いだ先天の精が「腎」に格納されるところから始まります。そして、誕生後は、「心」の持つ自意識のもと、「肝」は常に前に進むべく外界と接しながら自律機能、血、筋をコントロールします。「脾」は飲食物から後天の精を抽出してエネルギーとし各臓に供給します。「肺」は感覚をつかさどり「肝」と共同で無意識的な調節機能を発揮するほか、気や水の循環に深く関ります。「腎」は活力の源であり、身体活動を深部から支えていく核のような存在であること、そして体全体の水の代謝のコントロール・タワーとして働きます。こうした全体像が、おぼろげにも想像していただけたでしょうか。
こうした見方は、私たちが普段接している西洋医学の考え方とは異なる部分も多く、すっと理解することは難しいかもしれません。大事なことは、西洋医学と東洋医学のどちらがより優れているかという議論ではなく、異なった見方を知ることで健康で健やかな生活をおくるための気付きを得ることだと思っています。
ここまで、2回にわたって述べてきた臓の働きを健全に保つためには何をすればよいか。
この問いに対する答えこそが、東洋医学の示す健康へのヒントとなります。
回答例を挙げると、「怒らず心穏やかに過ごす」「腹八分の飲食」「間食をしない」「冷飲食を避ける」「早く寝る」「目を使い過ぎない」「仕事も遊びもほどほどに」「体を冷やさない」などですが、どれもどこかで一度は聞いたことがある言葉ではないでしょうか。そして、いつのまにか現代人の生活は、これらの言葉とは真逆の状況が当たり前になってきていると感じませんか。
これらについても、おいおい詳しく書いていければと思っています。