前回、五臓(肝、心、脾、肺、腎)は、西洋医学では「臓器」の名称ですが、東洋医学では身体の持つ「働き」につけられた名称だと書きました。理解を深めるため、今回は、東洋医学が見ている五臓の「働き」を覗いてみましょう。西洋医学が臓器の働きとしているものもありますが、中には「えっ、なんでそれが?」と思う「働き」も出てきます。

 

先ずは、「心」からです。

五臓はどれも重要な「働き」ですが、五臓六腑を統括する働きを持っているということで、心は君主に例えられ最も高次の臓(働き)とされています。

心には、「神」と呼ばれる精神的な働きと、血の巡りに関連した働きがあるとされます。

後者の血の巡りという働きは、西洋医学の心臓のことを考えるとうなずけると思います。

 

 

では、「神」はどうでしょうか。神は「私はこうありたい」「他人と仲良くしないといけない」といった自分の意識、判断、思考、知覚、記憶などを支配しています。

私たちは「自分」という言葉をよく使いますが、その自分とはいったい何を指して言っているのでしょうか。ボディという意味での身体を指して言ってはいないと思いませんか。むしろ、「自分はこういう人間だ」といった自意識そのものが自分だと言っているように感じます。

このように、「自分」という実態を作り出しているのが神という働きで、その自意識のありようはその他の臓(働き)にも影響します。「人の役に立ちたい」という崇高な意識を持つ人であれば、他の働き(臓)もそれに沿って機能していくことでしょう。そうした、他臓への影響を通じて全身の意識的、無意識的働きを調和させるのが心の神という精神的働きです。

 

その他では、心は舌の運動や味覚、発汗にも関り、心の状態は顔の色つやに現れるとされます。舌の動きや味覚といった働きが心の働きといわれるとピンとこないかもしれませんね。

尚、東洋医学では、心は「火」に例えられています。

 

 

次に「肝」を見てみましょう。

「心」の君主に対して、「肝」はその君主に忠実に仕える将軍に例えられます。君主の意を汲んで活躍する実動部隊のイメージです。

具体的には、肝は常に体の活動(休息も含む)を円滑に運営し、内外の変化に対して適切な対応を取って身体を守る働きをします。こうした、肝の何事にも前向きに取り組み突き進む姿から、東洋医学ではしばしば肝を常に天空に向かって伸びようとする木に例えます。火(=太陽)に例えられる心に向かって、肝と言う木がすくすくと成長していく姿です。

 

 

「体の活動を円滑に運営」という表現はなんでもないように聴こえますが、実は、東洋医学で「疏泄」と言われる大変重要な機能なのです。例えば、後述する脾という働きのひとつに消化吸収がありますが、消化吸収がスムーズに行われるためには肝のこの働きが不可欠です。西洋医学で消化管の働きは自律神経によって調節されていることが知られていますが、東洋医学では肝が身体の活動を円滑に運営するためのいろいろな自律機能を担っていると考えます。(くどいようですが、臓器の肝臓が担っているというわけではありません)。

 

「内外の変化に対して適切な対応を取って身体を守る働き」という点で、肝という働きは内外の変化の影響を受けやすい立場にあるともいえます。行き過ぎた内外の変化に対して肝の働きがうまく対応できないと、体調が変化したり、自律機能に狂いが生じたりします。まさに、ストレスによる体調不良ですね。何かとストレスの多い現代人の生活では、肝の働きが阻害されて起こる体調不良が多いのはうなずけます。以上のように、君主の実動部隊として機能するために必要となる判断力も肝の役割のひとつです。

 

その他、肝という働きは、血や筋と密接な関係があり、血の適切な配分とコントロール、血で動く筋の支配、多くの血を消費する目や視力への関与などが挙げられます。そして、肝の状態は爪に現れるとされています。

 

 

次に「脾」を見てみましょう。

脾は「後天の本」と呼ばれ、その中心となる働きは、生まれて以降、食物からエネルギーを吸収して生命を維持することとされます。具体的には、飲食物を取り入れ、消化し、栄養分や水分を吸収し、それらを有用な形にして全身にくまなく送り届け、さらに消化して残った不要なものを排泄することまでが含まれます。

こうして送り届けられた栄養分や水分によって身体が動くことから、肉付きや四肢の筋力などは脾の機能に依存しているとされます。

 

その他には、血が血管から漏れ出ないようにする働きや臓器が下方に垂れ下がらないようにする働きもあります。全身に送られた栄養によって血管や粘膜、筋膜が適切に維持されると考えれば、出血や臓器の下垂を防ぐ働きがあると考えるのはうなずけますね。

 

ところで、東洋医学では脾はしばしば「土」に例えられます。以前のブログで触れたように、「人間は自然の一部」と考えられ「土」すなわち「大地」は全ての生物の生きる土台にあたります。つまり、脾は健康維持の土台と考えられます。大地が適度に水分と養分を保持した状態は、植物が根を張り成長する必須条件になります。水分や養分は、少なすぎても多すぎても植物はうまく成長しません。このことは、私たちの健康における飲食の在り方にも通じる考え方です。そして、脾の状態は唇に現れるとされています。

 

 

以上、心、肝、脾について述べました。次回は残る2つ、肺と腎の働きについて触れます。