第3回のブログで「脾」「腎」といった言葉が出てきました。
今回は、これらを含む「五臓」について触れたいと思います。
東洋医学で「五臓」とは、「肝・心・脾・肺・腎」の5つを指し、いずれもとても重要なものとされます。
おそらく皆さんは「ああ、5つの臓器(肝臓、心臓、脾臓、肺臓、腎臓)のことね」と思われたことと思います。
でも、実は東洋医学では少し違った見方をしています。とても分かりにくい概念ですが説明に挑戦したいと思います。
ちなみに、「五臓六腑」という言葉もありますが、これは上記の五臓に加えて6つの腑(胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦)をあわせて表記したものです。
五臓も六腑もどちらも大事ですが、東洋医学では特に五臓を重要視しています。
大きな病院に行くと消化器内科、呼吸器科、脳神経外科、耳鼻咽喉科といった身体のパーツ、すなわち臓器や組織ごとに専門が分かれていることに気が付きます。
これは西洋医学が、人体を臓器や組織の集合体、つまり「物体」として捉えているからだと思います。
不調が有ればどの臓器、組織に故障があるのかを探し出して治療し、必要とあればパーツの交換(臓器移植)すらすることもありますね。
つまり、これらの臓器や組織とは、実際の身体のパーツのことで実態のある物体です。
一方、東洋医学はそうした見方をしていないように思います。
東洋医学は、いろいろな働き(機能)の集合体が生命体を構築していると考え、その働きの集合体に「肝」や「肺」といった名称を付けたと考えられます。
そうすると、五臓というくらいですから最低でも5つの働きの集合体が存在し、それぞれの集合体は相互に関連し影響しあいながら、生体を構築しコントロールしているということになります。
興味深いのは、「心」つまり心の動き、働きもこれら5つの働きのひとつとして、他の4つの働きとの間で相互に影響を与えあっていると考えていることです。
つまり、東洋医学では心の動きや精神のありようが体調に与える影響を詳細かつ具体的に把握していたということになります。
では、東洋医学と西洋医学の見方の違いを具体的に見てみましょう。
東洋医学の「脾」という名称の働きは「食物を消化し、栄養を抽出し、それを体の隅々に送り届けて生命を維持する」ことがメインですが、それ以外にも体液を体の上の方に持ち上げるとか、血が血管や粘膜から漏れ出ないようにするといった働きもあります。
それらをひとくくりにして「脾」と呼んでいます。
そうした東洋医学がとらえている脾の働きは、西洋医学のどんな臓器がかかわっているのでしょうか。
「消化」だけでも、少なくとも胃、小腸、大腸、肝臓といった複数の臓器がかかわることになります。
また、西洋医学の臓器としての脾臓は左腹部の胃の後方にある小さな臓器で、その働きは古くなった赤血球を処理したり血小板を貯蔵したりするとなっています。どうやら消化とはあまり縁のなさそうな働きですね。
このように、東洋医学の脾(働き)と西洋医学の脾(臓器)とは明らかに異なることがご理解いただけるかと思います。
私たちが五臓の肝、心、脾、肺、腎と言った言葉を使っている時、西洋医学の肝臓、心臓、脾臓、肺臓、腎臓とは異なる意味合いで語っているのです。
ですから「病を治す」という目的は同じでも、東洋医学と西洋医学とではその病因分析や治療方法は自ずと異なってきます。
なんだか頭の中がこんがらがってきたかもしれませんね。
でも、心配はいりません。東洋医学では、人体に五臓それぞれに対応した経脈というルートが有って、
そこに治療を加えることで五臓の働きを調整することができるとされています。
具体的には、経脈の上にある経穴(いわゆる、ツボです)の中から効果のありそうな経穴を選び出して鍼や灸を行うのです。
冒頭で五臓六腑という言葉を紹介しましたが、東洋医学の世界では六臓六腑とされ、それぞれに経脈が付属しているので合計で12本の経脈(正経)が決められています。
それ以外にも奇経と呼ばれる8本の経脈もあります。
ここでは、東洋医学が、人間を六蔵六腑の名称が付けられた「働き」の集合体で、病気(不調)はそれらの働きに問題が生じている状態とらえていること、そして、鍼灸はそうした問題に対して経脈上の経穴に鍼や灸をして治癒に導くということを理解していただければと思います。