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荒さんが亡くなった。

 

JIGGER'S SON(ジガーズサン)は1996年に事務所とレーベルを移籍した。
その事務所「ミストラル」の経営者の1人が荒さんだった。
ミストラルの当時の所属アーティストはあのザ・コレクターズとカーネーション。
すでに当時から日本の音楽史に名を轟かせていたお2組と同じ事務所ということで、それはもうロックな事務所を想像していたが、荒さんも社長のブンちゃんも穏やかで優しいおじさん達だった。

 

いわゆる芸能事務所というところはピンキリで、友人の1人など極悪事務所に所属したばかりにとんでもない契約を交わされ「あの頃は本気で死を覚悟したことさえあった」と話していたほどだった。
そこまでではなくとも胡散臭い自称「マネージメントオフィス」が山ほどある中、この「ミストラル」はこちらが心配になるほどアーティストに優しかった。「これでどうやって経営が成り立っているのだろう?」といつも不思議に思っていたほどだ。

 

荒さんについて忘れられない出来事がある。

 

1998年、JIGGER’S SONが活動休止を決め、最後のツアーに出かけた。
僕は心の底から「活動休止は活動休止。ちょっと休んでまた活動を再開する」と考えていたのだが、これを発表してからツアーに出ると「ほんとは解散だろ!」「やめないで!」などの声があがる事が想像できて「そんな雰囲気の中でライブやるなんて嫌だなー」ということで、ファンの皆さんには活動休止を告げないままツアーに出たのだった。

 

今思えば、今後あれほどの大規模なツアーをやるというのは現実的には不可能だから、結果的には最後の全国ツアーになってしまったわけで、ファンの皆さんには申し訳なかったなあと思ったりもするが、本気で活動再開を信じていたが故の行動だったと理解してもらえたら救われます。
今さらだけどごめんなさい…。

 

とにかく。
そのツアーの東京公演の会場打ち上げの場で、チーフマネージャーだった荒さんが「JIGGER’S SON活動休止について」を集まってくれた多くの関係者の前で説明しなければならなかった。
多くのバンドが「活動休止」と言いつつ実際には解散していく中、僕らは違うのだということをちゃんと説明してくれ!荒さん!と、荒さんが話し始めるのを待っていた。

 

やがてクチを開く荒さん。
「今日は皆さんにお話しがあります。実はこのツアーをもちましてJIGGER’S SONは活動休止します。」まで話したところで荒さんが泣き出してしまった。

うわー!っと驚く私。ここで荒さんが泣いたら「やっぱり解散なんだ」という空気になってしまうではないか!泣くな!荒さん!

 

結局、その後の言葉はグズグズで何を言っているのかわからなかった。
そして、見事にそこにいたみんなが「活動休止という名の実質解散」というムードをその身にまとって帰って行ったのだった。

 

みんなが帰った後、荒さんに詰め寄る私。
「なんで泣いちゃったんですか!荒さんが泣いたら違う意味に伝わっちゃうじゃないですか!」と僕は責めた。「ごめんごめん」と照れたように謝る荒さん。
僕は「なんだよ荒さん…」と半分怒っていたが、半分は荒さんが僕らのために泣いてくれたのが嬉しかった。本当に優くて、そして音楽とミュージシャンを心から愛していたおじさんだった。

 

結局、その後、JIGGER’S SONは活動を再開することなく2001年に解散した。そうなること、荒さんにはわかってたのかなあ。(JIGGER’S SONは2012年に再結成。現在も活動中)

 

1999年、僕はソロ活動を始め「坂本サトル」になるわけだが、ソロになった僕のチーフマネージャーも荒さんだったから計6年間、ミストラルにお世話になった事になる。

その後、ミストラルは会社を解散し、荒さんは赤坂のライブハウス「グラフィティ」のブッキングマネージャーとなった。荒さんから連絡をもらって何度かライブをやったりしていたが、6年前、プライベートなパーティーでグラフィティを借りた時にお会いしたのが最後となってしまった。


今日の出棺前、荒さんのお兄さんが途中号泣しながら振り絞るようにこう話された。
「コウジは3人兄妹の末っ子でした。1番若いやつが1番先に逝くなんて。もっと優しくしてあげれば良かったと後悔しています。」

 

後悔なき人生を。逝くなら順番通りに。
誰かが亡くなる度にそう思うけれども、人生なかなかそうはいかない。


昨年9月に小林が亡くなり、そして今度は荒さん。
元トライアドのボス、佐藤さんも亡くなった。
過去にお世話になってきた方々が次々と去って行く。
時代の終わりを感じてしまうなー。

 

 

「これからは今まで以上に目の前の事を濃くやろう」と強く思った初夏の1日でした。

 

荒 弘二さん、享年63才。ご冥福を心から祈っています。

荒さん、ありがとう。さようなら。

 


さあ、今日はこれから青森に戻って楽曲制作の打合せ。
濃くいきます。濃く生きます。

 

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