髪を切ってさっぱりした後、そのまま原宿でTシャツでも…とある店に入った。

感じの良い男子店員がついて回ってくれてスムーズに買い物も終わり、会計を済ませようとしたその時、その店員が満を持したように「坂本サトルさんですよね?」と言った。
「やっぱり!昔、好きでした!こんなところで会えるなんて!」

「『昔』好きだった」というところに引っかかりつつも、聞けば青森県は弘前出身だという。
地元でバンド活動をしていたのだが「一発、東京で勝負しよう!」とメンバーを誘ったところ、見事に全員の返事は「NO!」。
それでは、と一人上京。今はこの店でバイトしながら弾き語りで時々ライブハウスに出ている、と教えてくれた。
年を聞くと「もう32なんです」と、困ったような顔をして答える。

こういう時になんと言葉をかけてあげればいいだろう。

「続けていればいつかチャンスが来るかも知れない。やめたらチャンスは絶対に来ない」

「辞めるということを決めるのも勇気だ」

どちらも真実だ。
彼は何と言って欲しいんだろう?

少し考えたが、結局僕は彼に「やめたらチャンスは絶対に来ないからね」と言った。
すると彼は「この前、お客さんにもそう言われました」とほっとしたように答えた。
欲しかった言葉がかけられたんだ、と僕もほっとしたが、それが彼にとって良かったのかどうかはわからない。

他の洋服屋の店員がそうするように、彼も僕の買った商品を持って店のエントランスまで送りに出てきてくれた。
「今日、坂本さんに会えたのも何かの縁だと思います。頑張ります」と。

「おう!頑張れよ!」と別れたけれどもなんだか切ない。
夢を抱いて東京にやってくるやつがどれほどいるんだろうと考えて目まいがした。

今の僕の置かれている状況は思い描いていたものとは違っているけれども、それでも幸いにもこの21年間、なんとか音楽で生活を成り立たせてきた。
それはやっぱり辞めなかったからだと思う。
周りに励まされ、おだてられ、自分を奮い立たせたり慰めたりしながら続けてきたからこそ、思いがけないお話しをいただいたり、素晴らしい現場に立ち会えたのだ。
そうやって考えると、やはり今日、弘前出身の彼に話したことは正しかったのかな。

ひょっとしたらこれ、読んでるかもね。
今日会った店員のキミ。いつかライブに来てな。
さっきはうまく言えなかった事が伝わると思うんだよ。


胸一杯のままスタジオへ。
ミックスの最中だったけれども、どうしても歌い直したい箇所があって、2曲分のボーカルを一部録り直す。
ミックスというのはこれまで録った様々な楽器や声をまとめあげる作業だから、今さら録り直し!などと言われると作業が中断してしまうし、場合によっては今までやった作業が無駄になってしまう。

でも今日はどうしてもやりたかったんだよなあ。
体調や声の調子も確かにまあまあ良かったというのもあるけれども、洋服屋の彼に会って「俺はこうやって食ってきたんだぞ!」というのを自分で確認したいのもあった。

結果、エンジニアのナベちゃん曰く「出た!録れた!(>_<)」
ほらやって良かった!!
時間のない中でどれだけ悪あがきできるのかも重要だぞ店員くん!


結局、歌の録り直しで中断となったミックス作業だったが、その録り直した歌のお陰でさらなる高みへと登れたのであった。
これは大事な曲になりそう。
タイトルは「メリーゴーランド」といいます。


自宅スタジオのいいところは、エンジニアの家族やペットに会えるところ。
ナベちゃんの次男坊のようたくん(小学校2年生)は僕に懐いてくれていてほんとに可愛い。
「ようたは大人になったら何になりたいの?」と聞くと
「まだわかんない」とのご回答。

いいよいいよまだわかんなくて。
ようたは何にだってなれるんだから。
また明日来るからなー。

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