今後、週1ぐらいの間隔で僕がこれまでにあちこちで発表してきたエッセイを再掲載する事にする。
書籍になることもなく、掲載されていたページは閉鎖され、僕のMacの書類フォルダにひっそりと保存されていただけの文章達にもう1度光をあてるのだ。
過去の原稿を再利用。これぞエコ!

この再掲載シリーズは、今後「エッセイ」というテーマでカテゴライズしていく。
週に1度のお楽しみ、になるといいなあ。


というわけで記念すべき第1回は今から8年前に発表したこの季節にピッタリな話題。
8年前と言うことで「水素燃料」のあたりのくだりがアレだけれども気にせず読み進めていただきたい。


*=======*


「極秘情報『産業としての花粉症』」


今年も無事にというか何というか、恒例の花粉症が発症した。
例年では鼻づまりがメインだったのだが、今年のヤツは主に目にきやがっている。

悲しくもなく心打たれているわけでもないのに気がつくと涙がツーっと私の頬を伝う。そして、それがようやくおさまったかと思うと今度は猛烈なかゆみが私の眼球(正しくはその周囲)を襲うのだ。
なるべく我慢はしているのだが、1日に1回ペースでどうにも辛抱ならん状態がやってきて、その時はいけないことだとは知りつつもグリングリン掻きまくってしまう。ああ、その時のなんと気持ちの良いことか。そしてその後の目薬のしみることしみること。でもそれがまたクセになったりして。

…なんていう毎日を送っていたら、ちょっと顔が変わってしまった。ま、目が変わったために表情までも変わったように見える、ということだろうが。

結局、今年もまた病院へ行って花粉症の症状を抑える薬を処方してもらってなんとか毎日をしのいでいるわけだが、今日はこの花粉症について、いまだ誰も口にしていない驚愕の事実をここに述べてしまおうと思う。

題して「産業としての花粉症」


先日、近所の病院を受診した時に僕は先生にこう言った。「一番眠くならない薬を下さい。」
昨年飲んでいた薬は当時、最も眠くならないと言われていたものだった。しかしそれでもやはり眠い。

今年はさらにいい薬ができているはずである。それが欲しい。すごく欲しい。ぜひそれを下さい。
ところがそれに対する彼の答えはこうであった。「あれ?去年坂本さんが飲んでた薬、あれが1番眠くならないやつですよ」と。

…ということはあれですか、「去年の1番が今年も1番」。

製薬会社の担当者の方々が努力してるのはもちろんわかる。新しい薬が認可されるまでの時間と手間も素人なりに理解しているつもりだ。しかしこれだけ患者数が多く、しかもその数は年々増えること間違いなしの花粉症の薬が「去年と同じ」というのはどういうことなのだ?

「どういうことなのだ?」と疑問をなげかけて見たが、実は私は知っているのだ。花粉症の特効薬はすでに開発済みだということを。
それではなぜそれが発表されないのか?

よし、思い切って言ってしまおう。花粉症の特効薬が完成しているにもかかわらず発表されない理由。

それは!「花粉症が産業としてこの国に根付いてしまったから」なのだ!


僕が「花粉症に悩まされている」と自分のサイトに書いてからというもの、僕の元にはたくさんの「花粉症対策例」が届けられた。

曰く「ヨーグルトを1日200グラム食べると良いって『あるある大辞典』で言ってました。」
曰く「やはり甜茶ですよ。」
曰く「ビタミン剤を毎日飲んでたら発症しなくなりました。」
曰く「スギ花粉のない北海道に住んで下さい。」

これらのメールを読むだけでも、ヨーグルト業界、甜茶業界、ビタミン業界、北海道観光産業界はこの季節、潤ってそうだなー、というのは容易に想像がつく。
この他にもマスク業界、ティッシュ業界、空気清浄機業界、「花粉症のど飴」などというネーミングにも見られるように飴業界、「花粉症の季節は外に洗濯物を干さないように」という警告により室内乾燥機業界…等々、想像を遙かに超える数の業界がこの花粉症の恩恵を受けているいるわけだ。

ほとんどの企業はこの数ヶ月間で、なんと年間売り上げの約半分を稼ぐのだという。
そんな彼らにとって花粉症患者は最高のお得意様であり、その数が減るなどということはあってはならないことなのだ。

そんな理由でそれらの業界は総力をあげて製薬会社に圧力をかけているのである!


君は「石油を全く使用せず、排気ガスも全く排出しない『水素燃料』によるエンジンがすでに開発されている」という話を聞いたことがあるだろうか?

そう、すでに完成しているのだ。しかしそのエンジンは石油が枯渇しようとする数十年後にならないと世の中には発表されない。理由は言うまでもない。そんなエンジンが発表されてしまったら石油の価値はほとんどなくなってしまって、石油中心である現代社会の富のシステムが根底から覆されてしまうからだ。それを防ぐために産油国や石油メジャー各社が裏で手を組んでいるのだ。ある石油メジャーがそのエンジンを権利ごと買い取ったという噂もある。
これらの情報は「ゴルゴ13」で確認した話なので間違いない。

花粉症の特効薬が世に発表されないのも、これとまったく同じ理由によるものなのだ。

あー恐ろしい。やはりこの世は金に支配されている。そしてこの世界には知ってはいけないこと、見てはならないものがあるのだ。
 

しかしあなたはもう知ってしまった。
今日から謎の尾行や深夜の不審な物音には気をつけた方がいい。部屋のどこかに盗聴器が仕掛けられていないかどうかもきちんと調べた方がいい。

ああ、これを読んだあなたが明日も無事でありますように。


※注…上記の文章はほとんどが筆者の妄想によるもので、その業界の実情、実在する会社、商品名とは全く関係がありません。また唯一の参考文献としてあげている「ゴルゴ13」には常にかかさず「この物語はフィクションである」と明記されています。みなさんも花粉症に悩まされるあまり、自暴自棄になったり意味不明になったりしないよう注意しましょう。

(2002年3月、ネット上で連載していたエッセイより)