先日、ブタの臓器を人に移植する異種移植のニュースが話題になりました。

 

異種移植の臨床への応用は、医学的な面の他に倫理的な面での議論もありますが、人の臓器が回ってくる順番を待てず、「一刻も早く助かりたいので異種移植をしてほしい」という人もいれば、同種移植でも「亡くなった方からいただくのは抵抗がある」という人もいます。

 

異種移植で何故ブタの研究が進んできたかというと、一番は食用だから動物愛護の面で問題になりにくいという点で、次に、人に遺伝的に近いサルなどは人より大きくならないのに対し、ブタは成長が早く幅広い年齢の人に移植が可能だからとされています。

 

人より大きくなるサルに近いオラウータンやゴリラは、染色体の数も人とほぼ同じなため、人に臓器移植することは倫理的に許されていません。

 

筆者は長年動物用医薬品の開発に携わってきましたが、人用医薬品の領域も少し知見があり、人用医薬品の開発には、類人猿を使う実験は審査が厳しいため、一般的にサルやイヌを用いていました。

 

動物用医薬品の開発には、その薬の対象となる動物を実験に用います。

 

犬用医薬品の場合は犬、猫用医薬品の場合は猫です。

 

昨今、動物愛護の観点から、欧州先行で出来る限り動物実験をしない方向で進んできてはいますが、吸収~排泄試験、安全性試験などはどうしても対象となる動物を使わないと明確になりません。

 

以前、ある大学で実験犬(ビーグル犬、1歳齢)で薬が効くメカニズムを解明するための薬理試験を行いましたが、犬たちは生まれたときからずっとケージに入れられ、実験のときだけ外に出されて薬剤を投与し検査されていました。

 

実験を担当した獣医師は、実験犬として生まれた彼らは、実験が終わると安楽死させられるため、外の世界があることを知らせないことがせめてもの愛情だと言っていました。

 

彼らの命の犠牲によって生み出された薬は、多くの人や動物を救います。

 

移植などの大仰なものだけでなく、我々が日常的に使っている薬も、そういう子たちのおかげで存在することを覚えておいて欲しいと思います。

【鏡の世界を知ったオキナインコのアイ】