『光る君へ』にはまっています。
第25回「決意」へのコメントです。
今回もまた、とても、興味をそそられる場面がありました。
998年(長徳4年)の陰暦10月1日の夕方、京で部分日蝕が見られました。(陰暦1日ですから、新月ですね。ちゃんと日蝕のタイミングです。)
国立天文台のサイトで過去の日蝕の様子が調べられます。
こちらに、紫式部住居跡と言われる現在の蘆山寺(京都府京都市上京区北之辺町397)の住所を入力して、998年にあった日蝕の様子を調べてみたのがこちら。
夕方4時3分を食の最大にして、前後約一時間ずつ、部分日蝕となっていますね。主に太陽の右上を月が隠していっています。
ドラマの中でも、ちゃんと右上が欠けていました。
日蝕は古来、凶事の兆しと見なされています。ドラマでも道長が安倍晴明に、998年の災害を訊ねて、「地震・疫病・火事・日蝕・嵐・大水」と並べていました。
今回のコメントでは、この日蝕について……ではなく、この日蝕の前日の出来事として語られていた「まひろと藤原宣孝との結婚」について着目してみたいと思います。
変化球ですいません。日蝕は、季節確認のため、お話の枕(おおっ)として、導入に使ってみました。。。
さて、それでは、まひろと宣孝との結婚について。
今回の「決意」の回。まさに、まひろが決意を込めて、宣孝に送った手紙が画面に写りました。その後、二人が初めて結ばれるという流れでした。画面に写ったまひろの手紙には、青い花が添えられていましたね。
この花は「竜胆(りんどう)」です。開花時期は8月から11月。代表的な 秋の花として知られる花です。
なるほど、まひろが文を送ったのは10/1(太陽暦換算10/28)にあった日蝕直前、九月末のことですから、季節感ピッタリです。まひろの手紙の文面は明かされませんでしたが、「りんどう」が画面の中で、季節感も感じさせる鮮やかな存在でした。
「りんどう」が、古典の中で初めて登場するのは、『枕草子』の中です。
「異花(ことはな)どものみな霜枯れたるに いと花やかなる色あひにて さしいでたるいとおかし」(他の花々がみな霜にやられて枯れた中で、非常に派手な色彩で顔を覗かせている様子は、非常に趣きがある。)
少し遅れて、『源氏物語』の中にも、
「枯れたる草の下より、りんだうの、われひとりのみ、心長う這ひ出でて、露けく見えるなど、みな例のころのことなれど、おりから所からにや、いとたへがたきほどのものがなしさなり」(枯れた草の下から、りんどうが、自分だけ茎を長く延ばして、露に濡れて見える様子など、みないつもの時節のことではあるが、折柄か場所柄であろうか、実に我慢できないほどの、もの悲しさである。)
と描かれています。
着目したいのは、『枕草子』『源氏物語』どちらの表現でも、「りんどう」が「残花の美」として描かれていることです。
思えば、まひろは、父親である為時の無職時代が長かったことなどもあり、婚期が遅れました。そうして、20以上も年上で妻子持ちである宣孝の妻となります。その結婚の決意を告げた手紙に、「りんどう=残花の美」が添えられているというのは、味わい深いですね。手紙の内容は記されませんでしたが、なんとも染み入る添え花でした。