『現代文 標準問題精講』を読み始めてくださった読者の方から、
「『はじめに』が良かった」 という声が、いくつか聞こえてきました。
有難うございます!
ということで、旺文社さんの許可を得て、「はじめに」全文掲載しちゃいます。
ちょっと長いですが、ご高覧ください。
『現代文 標準問題精講』「はじめに~思考の往復運動のために~」
チェック柄のボードの上に、太い柱が一本、右上から光が射して、薄い影が出来ている。
さて、にわかには信じられないと思うが、このボードのAのマスとBのマスの色は、実は同じ色である。
4頁の右肩に、同じ色が印刷してあるので、試しに上図のAとBのマス目に合わせてみてほしい。二つのマスの色が同じであることが確認できるはずだ。
なんと、僕たちの知覚がいい加減なことか。
なんと、僕たちの状況認識が文脈依存的である(周囲の状況に左右される)ことか。
「これは、二色柄のチェックボードであり、そこに影が射している」という固定的な認識から、僕たちはまったく自由になれない。
「これはこういうもの」という「結論ありき」の断定的な考え方、決まりきった文脈から、どのように離れて自分自身の頭で考えるか……そんなことを教室ではよく話すのだが、その飛躍がいかに難しいかを、生理的にも思い知らされる図である。
僕たちの周りは、決まりきった文脈だらけだ。例えば「常識」とか、「伝統」とか、「同調圧力(周囲がそうだと、自分もそのように考えて、行動しなければならないと思うような無言の重圧感)」とか、いずれも、ときに僕たちの思考を決定的に縛ってしまう「周囲の文脈」である。
その呪縛から、離れることは出来るのか。もしも離れる可能性の小さな矢があるとしたら、それは、「知ること」だと思う。「人間は、このような場面では、このように考えがちであり、それが思わぬ誤謬を生む」と、一つ知るだけでも、わずかに文脈の罠から離脱できる可能性があるかもしれない。
もしくは、「問題意識を持つこと」だと思う。「よく言われるこれは、本当にそうなのか」と、問題意識を持って、社会や人間や人生に立ち向かう。これが罠にかからない知恵となる。
一方で、本当にAとBとの色は、同じ色なのだろうか。
思えば、僕たちのすべての知覚・認識は、状況の中にしかあり得ない。周囲の状況の中で、比較し、秩序立て、枠組み化しながら、生活の利便とする。周囲の状況をすべて取り払って、単体としてのAとBとを比べることは、もしかしたら不毛な作業ではないか。右の図から、二色柄のチェックボードを認識するのは、生きていく上で、必要で有効な類推力だろう。
いったい、どっちが言いたいんだ……そう思ったかもしれない。
いま、僕は「AとBとは同じ色である」という、新たな決まりきった認識に対して、再度、「本当にそうなのか」と問題意識を持って、疑問をぶつけてみたわけだ。
実は、そのような往復運動の中でこそ、「自分自身の考え方」が、生まれてくるのだと思う。
この『現代文 標準問題精義』の中で、社会や人間や人生について、君自身の頭と心で読み解いていく往復運動をたくさんしてほしい。
その往復運動が、これからの人生の様々な場面で、より色濃い時間や、より充実した感動や、場合によっては、重い荷物を軽やかに捨てて、颯爽と明日を生きる力になるとしたら、望外の喜びである。
おっ、面白そうということになりましら、ぜひ、書店へ、もしくはAmazonへ!
▼以下のブログページで読者の方のレビューを紹介しました⇒
レビュー⑴ 2015/10/22
『現代文標準問題精講』レビュー(1) | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new (ameblo.jp)
レビュー⑵ 2015/10/27
『現代文標準問題精講』レビュー(2) | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new (ameblo.jp)
レビュー⑶ 2016/1/20
『現代文標準問題精講』レビュー(3) | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new (ameblo.jp)
レビュー⑷ 2016/1/24
『現代文標準問題精講』レビュー(4) | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new (ameblo.jp)
レビュー⑸ 2017/3/20
『現代文標準問題精講』三版出来&レビュー紹介(5) | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new (ameblo.jp)
レビュー 2015/11/24
現代文おすすめ参考書10選 | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new (ameblo.jp)
▼序文が読めます⇒『現代文 標準問題精講』「はじめに~思考の往復運動のために~」 | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new (ameblo.jp)
▼掲載した素材文40を見渡せます⇒ 『現代文 標準問題精講』の素材文40です。 | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new (ameblo.jp)