太宰治の『人間失格』だが、ラストに近い場面に、
「人間、失格。
もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。」
という一節がある。
自らの人生を省みた主人公が、静かに述懐する場面だ。
高校生のころ、このくだりを読んで、
「人間失格」という四文字の間に打たれた「、」の迫力に、打ちのめされた。
「人間」と言ったあと、ほんのわずか一呼吸して、そして「失格。」と自ら決着をつける。
たった一点、わずかな一呼吸の中に、さまざまな思いが詰まっている。
大学生のころ、太宰治の自筆原稿のコピーを見たことがある。
このくだりは、「人間失格。」とそのまま原稿用紙の升目に四文字連続して書かれた上で、あとから、読点が加筆の形で記されていた。
太宰治、渾身の一点である。