人間、失格。 | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new

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けれど一方で、言葉や愛がまったく立ち向かうことのできない不安や困難も、
また、存在しないのではないか……僕は、今そう思っている。
『100万分の1の恋人』榊邦彦(新潮社)

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 太宰治の『人間失格』だが、ラストに近い場面に、

「人間、失格。
 もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。」
 
 という一節がある。
 自らの人生を省みた主人公が、静かに述懐する場面だ。

 高校生のころ、このくだりを読んで、
「人間失格」という四文字の間に打たれた「、」の迫力に、打ちのめされた。

「人間」と言ったあと、ほんのわずか一呼吸して、そして「失格。」と自ら決着をつける。
 たった一点、わずかな一呼吸の中に、さまざまな思いが詰まっている。

 大学生のころ、太宰治の自筆原稿のコピーを見たことがある。

 このくだりは、「人間失格。」とそのまま原稿用紙の升目に四文字連続して書かれた上で、あとから、読点が加筆の形で記されていた。

 太宰治、渾身の一点である。