
⑤次世代モビリティ:理想と過酷な現実
長野県「別所温泉」で直面した電動キックボードの構造的欠陥と運営の不誠実さ
1章:問い直される「次世代モビリティ」の正当性
近年、電動キックボードをはじめとする「特定小型原動機付自転車(以下、特定小型原付)」を取り巻く環境には、強い逆風が吹き荒れています。
手軽な移動手段として普及が進む一方で、市民の憩いの場でのマナー違反や交通違反の多さが露呈。京都の鴨川沿いでは、通行禁止区域への進入を防ぐためにシステム上で強制的に車両を停止させる措置が導入される事態にまで発展しています。さらに2026年6月2日には、東京都北区の大型交差点で軽トラックと衝突した電動キックボードの運転者が死亡する痛ましい事故が発生しました。警視庁が当初、事業者名を「捜査中」として伏せていたことも含め、その安全性や社会的な歪みについて議論が噴出しています。
また6月2日、東京都北区王子の「王子交差点」で、電動キックボードと小型軽トラックの衝突事故が発生し、キックボードに乗っていた運転者が死亡した。
「電動キックボード利用者が交通事故で死亡。警視庁が「捜査中」と伏せたLUUP、走るべき場所はそこなのか」
↑BEST T!MESより
都市部での危険性が叫ばれる中、SNSなどでは「1時間にバスが数本しか来ないような、公共交通の空白地帯(反中心市街地や観光地)こそ、このモビリティが活きるのではないか」という声も聞かれます。堺市などでも新たな移動環境の構築を目指すSMIプロジェクトが進んでいますが、果たしてその実用性は本物なのでしょうか。泉北ニュータウン地域での「電動キックボードシェアリング実証実験」
筆者は、2026年1月に放送されたドラマ『探偵さん、リュック開いてますよ』のロケ地としても記憶に新しい、長野県上田市の「別所温泉」を訪れました。今回はこの地でサービスを展開する運営会社のモビリティを実際に利用し、その有用性と課題を検証しました。しかし、そこで目にしたのは、次世代モビリティの理想とはかけ離れた、車両の構造的欠陥と整備不足、地元の人々の冷ややかな視線、そして運営会社のあまりに不誠実な実態でした。
2章:構造的欠陥と車両のリアル
利用手続き自体は、スマートフォンから警察庁の交通ルール動画を閲覧し、クレジットカード登録を済ませるだけで、一見すると非常にスマートかつ「簡単」に完結します。しかし、一歩街へ連れ出した瞬間、その手軽さの裏にある致命的なリスクを身体で知ることになりました。
構造的な不安定さと走行の恐怖
「手軽な乗車」というイメージとは裏腹に、実際に走行を始めると激しい不安定さに襲われます。その最大の原因は、わずか25cm程度しかないタイヤの外径と、固着して可動しないフロントサスペンションにありました。
- 左端走行の困難さ: 法律上、特定小型原付は車道の左側端を走行することが原則ですが、路面の凹凸や傾斜の影響をダイレクトに拾うため、まっすぐバランスを保つことすら容易ではありません。
- 重心の高さに起因する操縦安定性の悪さ: 自転車が『座って低重心で安定させる乗り物』であるのに対し、電動キックボードは『立って高重心でバランスを取らなければならない乗り物』なので、倒れ始めたときにリカバリーする余裕がほとんどありません。
- 小さな陥没での転倒リスク: 自転車であれば何の問題もなく通過できるような、アスファルトのわずかな陥没や段差でも、ハンドルを激しく取られ、転倒しかける場面が何度もありました。
自動車の交通量が極めて少ない温泉街だからこそ辛うじて走行できましたが、これを交通量の激しい都市部の幹線道路や大型交差点で走らせるには、あまりにリスクが高すぎると言わざるを得ません。日常的な移動手段として活用するには構造的な欠陥を抱えている、というのが率直な感想です。
整備不良の車両たち
さらに驚くべきは、提供されている車両のメンテナンス状態の劣悪さでした。筆者が貸し出された車両は、クラクションが故障しており、さらに前輪を支える重要保安部品であるフロントフォークは茶色く錆びついていました。車両の安全性を担保すべき事業者が、このような整備不十分な車両を平然と利用者に提供している現状は、重大な事故を引き起こす引き金になりかねず、極めて危険です。
運営会社との温度差
この別所温泉で3時間ほど電動キックボードを試してみましたが、立ち寄った温泉街の店々で、地元の方々から怪訝そうな顔で声をかけられました。「それ、怖くないですか?」「乗ってみてどうですか?」と。
筆者が「非常に運転しにくく、危険な乗り物ですよ」と率直に伝えると、「ですよね〜」と一様に納得したような返事が返ってきました。また、サービス開始後およそ10か月が経過しているとのことですが、観光客に人気なのかと尋ねると「めったに見ない」と誰もが口を揃えます。次世代モビリティを謳いながら、地元の人々にも観光客にもほとんど利用されていない、それがこの温泉街におけるリアルな現状のようです。
3章:システムトラブルと運営の実態、そして結論
車両のハードウェア以上に深刻だったのが、ソフトウェア(システム)の不備と、トラブル発生時における運営会社の不誠実な対応でした。
旅先での返却トラブルとアプリの罠
トラブルは返却時に発生しました。WEBアプリ上のマップでは「全く別の宿」の位置にポートが誤設定されており、正規の返却場所である宿の玄関で「返却できない」というエラーが表示されたのです。
刻々と過ぎゆく利用時間。このままでは超過料金が発生してしまうという焦りと、見知らぬ土地で立ち往生する不安。宿のフロントスタッフを巻き込み、システムの権限を持たない彼らと共に、皆で冷や汗を流しながら必死に対応を模索しました。誤った場所まで車両を移動させるという理不尽な対応を強いられ、現場は非常に緊迫した空気となりました。
本来、楽しみにしていた旅の時間は、何物にも代えがたい貴重なものです。なんの落ち度もない私たちが、システムの不備という運営側の責任によるトラブルのために、必死にレンタル終了操作に追われ、その後の不誠実な対応への釈明にまで時間を奪われる結果となったことは、何よりも不本意であり、やりきれない思いで一杯でした。私たちの精神的な消耗に対する何らかの慰謝の言葉や、利用者目線の誠実な配慮が運営側から欲しかったというのが、偽らざる本音です。
担当者との対話とシステムの「不自然な修正」
トラブルを解消すべく運営会社へ連絡を入れましたが、そこで行われたやり取りは、あまりに不誠実なものでした。
・16時35分:運営会社担当者(マエザワ氏)との通話
状況を説明するも、担当者は「WEBアプリ上のポート位置は正しく宿の玄関に指定されていることを確認した。そのような不具合は起こるはずがない」と、こちらの報告を全否定。謝罪の言葉は一切なかった。
・16時44分:状況の再確認
通話後に念のためWEBアプリを確認したが、やはりポート位置は「別の宿」に誤設定されたままであった。システムの不具合は明らかであり、担当者の主張が事実に反していることがここで証明された。
・17時02分:担当者からのメッセージ
超過分の返金を行う旨の通知が届く。ただし、システム側のミスであったかどうかの説明や謝罪は皆無。
その後:決定的な違和感
改めてWEBアプリを確認すると、先ほどまでズレていたポート位置が、何事もなかったかのように正しい宿の玄関へと修正されていた。
つまり、担当者は電話口で「不具合はない」と嘘をついて利用者を突っぱね、電話を切った後に裏でこっそりシステムを修正したと考えられます。自社のミスを隠蔽し、利用者に非があるかのように仕向けるその姿勢は、インフラを担う企業としてあまりに不誠実と言わざるを得ません。
企業の杜撰な体質
公式ホームページの会社説明に使用されている画像にも違和感を覚えました。よく見ると「車内にいるはずのドライバーが、空を握る左手。車外から別の車を運転している」ような不自然なAI生成画像が使われており、このような細部への意識の低さが、車両管理やシステム運用における杜撰さに直結しているのでしょう。
結論:地域に拒絶される未来
宿の管理者によると、過去にも同様のトラブルが繰り返されており、お客様にご迷惑をおかけするサービスをこれ以上請け負うことはできないと判断。すでに旅館組合に対して、この電動キックボードの預かり運営については再考を求めており、組合側も慎重に協議を進めているとのことです。
「交通難民を救う次世代の足」という大義名分は美しいものです。しかし、一歩間違えれば命を落とす不安定な乗り物であるという自覚の欠如、ずさんな車両管理、そしてトラブルを隠蔽しようとする不誠実な運営体制が続く限り、電動キックボードが地方の救世主になることはありません。都市部での廃止論に続き、期待された観光地からも「迷惑な存在」として見放される未来は、すぐそこまで迫っています。








