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『「日本経済AI成長戦略」

  -DXの遅れを、AXにより逆転するチャンスは、

     消滅するホワイトカラー社会から、

        ライト・ブルーカラー時代と

          アドバンスト・エッセンシャルワーカー産業時代へ、

            リープフロッグ(Leapfrog;カエル跳び)すること-』

                     (冨山和彦著 松尾豊監修 文芸春秋)

        

■         2040年、日本の事務職は、AIに代替され440万人が余剰に!(はじめに)

 著者の富山和彦は、著書「ホワイトカラー消滅(NHK出版2024.10.10)」に於いて「日本のホワイトカラーは低生産性であり、このままでは生き残れず消滅する」と問題提起をしました。当時は今程AIが本格普及していなかったため、著者は、ホワイトカラー層の余剰と、人手不足の相反を僥倖として、未来を切り開く提言を語るに留まっていました。

 しかし、ここにきて2040年までにAIによる代替で、事務職(ホワイトカラー)が437万人余剰になるとの経済産業省の推計「2040年の産業・就業構造の未来図(人口減少下でも一人一人が豊かになれる日本)」(以下では「未来図」と表記)が2025年6月3日に発表され、今も改定(2026年1月27日「2040年の就業構造推計<改訂版>の概要」〔注1〕【図表1】P12参照)が続いています。

 そして、まさにこのタイミングで、「未来図」と方向性を同じくし、“AIを軸に、如何に「未来図」を実現するか”という実行戦略を提言する、紹介本「日本経済AI成長戦略」が、2026年1月30日に出版されたのです。

 経済産業省の「未来図」のマクロ的視点と、紹介本「日本経済AI成長戦略」のミクロ的視点をインテグレートすることで、“人口減少下でも一人一人が豊かになれる日本(「未来図」のキーワード)”を実現する道筋を、発見することが出来るのではないでしょうか。以下で「未来図」と紹介本「日本経済AI成長戦略」について簡単に説明します。

 まず、「未来図」です。

 経済産業省では、30年続いたコストカット型の縮み思考から脱却し、「投資と賃上げが牽引する成長型経済」に転換し、日本経済を成長軌道に乗せるべしとして、2024年から「企業・国民・政府で共有し、実現可能・予見可能な明るい将来を見通す政策」の立案に取り組み、改訂(2026年1月27日)を加えながら、『過去30年と同程度に国内投資・賃上げが停滞した場合である「ベースケース」』を対比軸に置きつつ、「ベースケース」とは対極にある、『積極的な経済産業政策の強化による国内投資・賃上げを想定する「未来図(新機軸ケース)」』を構築してきました。2026年度から政策への実装が見込まれます。

 「未来図(新機軸ケース)」では、年率+4%の国内投資(2026~2040年の15年間で累計2230兆円<筆者推計>、2040年には200兆円の投資、民間資本ストックでは1825兆円<“ベースケース”比1.8倍>)を、次世代型投資(AX・DXなどの研究開発やソフトウェア・ロボット・通信機器等)に投資をし、産業構造転換(AX・DX・GX・フロンティア技術による差別化・省力化・高付加価値化)と就業構造転換(余剰の事務職437万人を、専門職と現場人材で吸収し、バランス化)をもたらし、結果として、就業者数が約6700万人(2022年)から約6300万人(2040年)に減少する中で、GDP成長率は名目+3.1%(“ベースケース”比7.0倍)、名目GDPは、2021 年度の547兆円から2040年度の975兆円と1.8 倍(“ベースケース”比1.6倍)に、また、名目賃金上昇率は年率+3.3%(“ベースケース”比2.2倍)、名目賃金(平均時給)が、2021年度の2,885 円/時間から、2040年度の5,366 円/時間と1.9倍(“ベースケース”比1.4倍)となる推計です。また、国際比較においても、労働生産性、資本装備率、GDP成長率において、下位レベルから、中・上位レベルに復活するシナリオです。詳細は〔注1〕を参照下さい。

 2040年の「未来図(新機軸ケース)」は、次世代型投資を積極的に推進し、産業構造と就業構造の転換を促し、事業の付加価値の向上と労働生産性を高め、GDPと賃金の上昇の好循環を生み出します。高市政権の「責任ある積極財政」により、『2040年の「未来図(新機軸ケース)」』は、現実のものとなる可能性が、極めて高いといえます。

 〔注1〕「未来図(新機軸ケース)」については、『「私の本棚2026.4.28【図表1】」“2040年の未来図「人口減少でも豊かになれる日本に向けて」”』(下記URL)を参照下さい。

URL: https://ameblo.jp/sakaigmo/entry-12964372854.html

 次に、紹介本「日本経済AI成長戦略」を見てみましょう。

 著者は、まず著書の冒頭で「DXはもう古い」と宣言します。その理由を『これまでのDX、すなわち「デジタル人材による業務改革」と、これから始まる「AIによる根こそぎ変容」は本質的に異なるフェーズである』と言います。つまり、DXは既存業務の効率性を上げ、一定程度の省人効果はあるが、業務をまるごと代替するものではないのです。一方、昨今の劇的進化を始めた、対話型の生成AI・AIエージェントによる業務変容力は、デスクワーク業務、ホワイトカラー業務の多くについて組織と人材を根こそぎ代替する力を持っているのです。また、日本に於けるDXについては、本来DXにより、販管部門の省人化が出来たにもかかわらず、日本企業においては「雇用維持」の名のもとに人員を削れないなど「日本型意思決定システムの罠」から抜け出せず、効率化というレベルに留まり、組織構造の変革に至らないで「DX敗戦」で終わってしまったと評価し、劇的進化を始めたAX時代に突入した今こそ、「DX敗戦」から学び「コーポレート・トランスフォーメーション(CX)力(組織構造の再設計)」で「AX時代の勝者」を目指すべしとします。

 更に著者は、劇的進化をするAIについて具体的に説明します。「現状、Copilot,

Geminiといった基盤生成AIはネット上に存在するパブリックな情報を食べるパブリックAIだが、これからのAIは、Word、Excel、PDF、Outlookのような非正規データも読める生成AIエージェントとして、企業のプライベートデータを分析するようになり、DX段階では未利用だった大量のデータが付加価値源泉となり、企業のかたち、組織構造、ビジネスモデルの大転換が起こり始める」と。これを著者は「革命の断絶(DXとAXは全く別物)」と言い、動力革命に於いて馬車メーカーが自動車産業の覇者になれなかったように、DX時代の勝者がAX時代の勝者になれる保証はどこにもないとします。従って「DXで出遅れた企業」だからと言ってAX時代に劣位になるとは限らず、むしろ過去の重荷を背負っていない分だけ思い切って再設計できる可能性があるとします。

 まさに、DXで出遅れた日本が、「AX時代の勝者」になるチャンスがやってきたのです。

 それでは次項で『日本が「AX時代の勝者」になるには』と題して、いくつかのポイントを見てみましょう。

 

■         日本が「AXの時代の勝者」になるには

【ホワイトカラーの消滅と“ボス力”の時代】

 著者は、次のように指摘します。『生成AI・AIエージェント(〔注2〕P2~5参照)は、「資料を作る」「会議をセットする」「入力する」などの“中間処理”を瞬時に遂行してしまい、これにより、ホワイトカラー層にとって決定的な大変容がやってくる。「指示を待って“中間処理”をこなす人」は、組織にとってもコストにしかならない。必要なのは、AIに作業をさせ、そのアウトプットを判断する人“ボス”だけである』と。さらに加えて『ホワイトカラー層は、AIを従える“ボス”か、AIに置き換えられる“部下”かの二極化が起こる。“ボス”化できる人材はごく少数だろう』と。

 しかし、著者はここで“部下” ホワイトカラーを次のように励まします。『“部下”ホワイトカラーに希望がないわけではない。それは、ホワイトカラー職種で身に着けた知識やスキルを活かし、AIを補完的に使うことで付加価値労働生産性を上げる余地の大きい現場現業型事業場で活躍する、「ライト・ブルーカラー」に転身することである』と。

【ライト・ブルーカラー・モデルとフィジカルAIの光明が明るく照らす時代へ】

 著者は、AXの影響について、大企業では「変えると困る人」が多すぎ、また、稟議・分掌主義など、AX導入を遅らせる構造要因が多く、DXでつまずいた要因がそのまま残存しており、AXによる変容力は極めて低いとします。一方、中堅・中小企業では、組織階層が浅く、過去のITやDXの残骸のしがらみが少なく、経営者がAX型のCX構造改革の推進役に変身することが可能であり、AIネイティブを前提としたシステムの構築をしやすく、リープフロック(Leapfrog;カエル跳び)戦略を展開できるとします。

 ここで言う中堅・中小企業は、経済構造的に規模の不経済の要素が多く、交通・物流・建設・医療介護・小売り・飲食宿泊・生活サービス・農林水産業・観光などの対面型・現場現業型の労働集約的な分散型事業であり、世の中の大半の事業はこのタイプであり、日本の会社の95%がこの領域に属する中堅・中小企業です。

 これらの業界では、深刻な人手不足、高齢化による市場縮小、デジタル人材の慢性的不足など課題が山積していますが、これは逆に、AIによる業務再設計・自動化・省人化の必然性を高める土壌でもあるのです。

 この点について、著者は、日本の優位性を次の様に主張します。『欧米企業のAI活用は、戦略部門やテック部門が主導し、トップダウンで全社に波及させていくスタイルが一般的です。だが、日本企業はそれが苦手です。むしろ日本が強いのは「現場の創意工夫」から始まる斬新的な改善と、それを拾い上げる“トップの目利き力”です。この現場主義こそ、フィジカルAI(〔注2〕P6~15参照)と最も相性が良いのです。なぜなら、現場でフィジカルAIを使うとすぐ成果が見えるのです。つまり、何が無駄で、何が価値を生んでいるかが生のデータ・一次情報で見え、トップがそこに目を向け、判断し、全体設計に反映させれば、それこそが差別可能な戦略的AXとなるからです。この様に、現場から始まるフィジカルAIなどを活用する経営変革、生産性革命こそが、日本型AXの中核になるのです』と。

 加えて、著者は言います。『産業モデルで見ると、これらの産業がGDPの7割を占めています。いろいろな意味でこの国の7割の産業領域に、AXによる生産性の向上、賃金の向上のチャンスが訪れている。まさに、AIを補完的に使うことで付加価値労働生産性を上げるライト・ブルーカラー・モデルと現場主義によるフィジカルAIの光明がこれらの経済圏を明るく照らすのだ』と。

〔注2〕AXの具体例については、「私の本棚2026.4.28【図表2】」“図と解説による『「AIエージェント」とは』、『「フィジカルAI」とは』(下記URL)”を参照下さい。

URL: https://ameblo.jp/sakaigmo/entry-12964372252.html

【新しい中間層を築く「アドバンスト・エッセンシャルワーカー産業」の時代】

 ここで一つの課題があります。それは、ホワイトカラーの消滅により失われた「分厚い中間層」を新たに生み出すことです。それがアドバンスト・エッセンシャルワーカー産業です。つまり、私たちが生活を維持していくうえで不可欠な医療介護、公共交通、インフラ、小売、物流などの産業は、深刻な人手不足と低賃金・低生産性から、ある意味、危機的状況にあります。このエッセンシャルワーカーが新しいAIテクノロジーと新たなマネジメント・ノウハウを結合することで(AXの実装による)、アドバンスト(AXによる高度化した)・エッセンシャルワーカーを生み、エッセンシャルワーカーの産業にイノベーションを起こし、付加価値生産性を上げ、人手不足をホワイトカラーから変身したライト・ブルーカラーが補い、新たな中間所得層を生み出すのです。

 これをマクロ的に表しているのが『経済産業省の「未来図(新機軸ベース)」<〔注1〕【図表1】P8、P11を参照>』です。「未来図」によれば、アドバンスト・エッセンシャルワーカー産業は、省力化・AI化等の補完・高度化により、労働生産性を向上(年率+3.6%)し、労働投入は減少(▲0.6%)し、賃金は他産業レベルに上昇(年率+3.2%)し、2021 年度の2,702 円/時間、から2040 年度の4,918 円/時間と2021年比1.8 倍となります。

 

■  AX戦略により、人口減少でも豊かになれる経済成長を達成しよう

―日本は、「人口減少国家」から「AI主導成長国家」へ変容できる―(むすび)

 既に、劇的変容を起こしつつあるAXについて、未来図と紹介本を通じて、その一部を見てきました。まさに、日本が30年の停滞から抜け出し、「人口減少国家」を「AI主導成長国家」に変容するチャンスです。

 AXの動向(AIエージェントやフィジカルAIなど)から目を離さず、そしてアジャイルに対応していきましょう。

 

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

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