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東京は彼岸桜が満開。
春の気配を感じる絵本を紹介したいと考えていて思い出したのが、随分前に知人からプレゼントしてもらった、この本です。
「つみきのいえ」
絵・加藤久仁生 文・平田研也
白泉社 2008年
主人公のおじいさんは、変わった家に住んでいます。
この街では、海の水がだんだんと上がってきて、家が沈んでしまうのです。
住んでいる家が水没しそうになるとその上に家を建てることを繰り返し、積み木のように家を重ねながら、おじいさんはずっとここに住み続けてきたのでした。
ある年の冬、床の上まで水があがってきて、また新しい家を作らなければならなくなりました。
おじいさんは家づくりに取り掛かりますが、大工道具をうっかり海の中に落としてしまい、大工道具は下の下の下の家まで落ちていきました。
大工道具をとりにいくために、おじいさんは潜水服を着て3つ下の家に降りていきます。
そこは3年前に亡くなったおばあさんと一緒に暮らしていた家でした。
その家でおばあさんが亡くなった時のことを思い出したおじいさんは、もっと下の家へ行ってみたくなり、下へ下へと潜っていきます。
おじいさんが海を潜っていく姿は、記憶の深いところに降りていくさまとシンクロします。
潜って下の家に辿り着くたびに、その家に住んでいた時の思い出がおじいさんに蘇ります。
そのようすを読んでいると、家ととともにある家族の思い出の温かさと、すべてがただただ過ぎ去っていくことの切なさの両方がないまぜになって、なんとも言えない気持ちになりました。
そうやってたどり着いた積み木の家の一番下には、まだここに水がなく陸地で、おじいさんとおばあさんが結婚して初めて建てた家がありました。
おじいさんとおばあさんの家族の物語は、この家から始まったのですね。
おじいさんは、大工道具を持って今の家に戻って、新しい家を完成させたようです。
物語は
「はるに なりました。
おじいさんの あたらしい いえが
できました。
かべの われめに
タンポポが ひとつ
さいていました。
おじいさんは それを みて
うれしそうに わらいました。」
と結ばれます。
おじいさんのこれからの日々への希望をたんぽぽが象徴しており、絵本全体が、このたんぽぽを思わせる優しい黄色が基調になっています。
自分の中に積み重なって眠っているたくさんの思い出を抱きしめながら、一日いちにちを大切に生きていこう。
そんな気持ちになる絵本でした。
人生の深さと優しい希望を感じることができる一冊、ぜひ手に取ってみてくださいね。
加藤久仁生さんは1977年鹿児島県出身のアニメーション作家。
平田研也さんは1972年奈良県出身の脚本家で 映画やドラマ、CMなどを手掛けていらっしゃいます。
この絵本の原作はアニメーション映画で、米国アカデミー賞短編アニメーション部門受賞、フランス・アヌシー国際アニメーション映画祭最高賞をはじめとする賞を受賞。
監督自身が描き下ろして絵本化した絵本です。