私たちsakaguraは絵本専門士2人のユニットです。働く大人にも絵本を届けたいと願い、活動しています。はじめましての方は、こちらをご覧ください音譜

 

 

 

1月末に、染色家の柚木沙弥郎さんが逝去されました。

 

とても残念です。

 

sakaguraの絵本専門士リレートークでまどかさんが紹介してくださった「ぜつぼうの濁点」のほか、柚木さんによる素敵な絵本がいろいろあります。

 

そのなかの1冊をご紹介します。

 

「魔法のことば」 

柚木沙弥郎 絵 金関寿夫 訳

福音館書店 2000年

 

 

「魔法としての言葉ーアメリカン・インディアンの口承詩」(思潮社)の中で紹介されている、エスキモーの人々に伝わる詩をもとに、絵本として構成した作品だそうです。

 

昔々、動物と人の区別がなく、なろうと思えば、人が動物に、動物が人になれた時代。

 

人も動物もみんな同じことばをしゃべっていました。


そして、ことばはみな、不思議な力を持つ魔法のことばで、ことばを口にするだけで願いが叶うのです。

 

・・・そんなお話。

 

ごく短いお話ですが、シンプルな文章と柚木さんの絵から、生命とことばに宿る原初的なパワーがじんじん伝わってきます。

 

柚木さんの絵でとりわけ印象的なのは、扉を開いて最初の場面。

 

文章がなく絵だけで、大昔の夜の情景を描いています。

 

太古の世界の真っ暗な夜空にまたたく星の光と大地のエネルギーが感じられ、一瞬で物語の世界に引き込まれます。

 

単純化されたデザインと土の匂いがするような色彩で本質を掴む力強さが、全編を通じて感じられます。

 

そんな絵を眺めていると、人と動物の境があいまいで、ことばにするだけで願いが叶ってしまう、そんな不思議な内容も「そうだったのかもしれない」という気持ちになります。


お話は

 

「なぜ そんなことができたのか

 だれにも 説明できなかった。

 世界はただ、 

 そういうふうになっていたのだ。」


と結ばれます。

 

読み終えた後には、この世界にあった不思議なパワーはいまも変わらず満ちており、自分の中にも流れているように感じ、不思議に力づけられる、そんな絵本です。


ぜひ一度、手に取ってみてください。

 

柚木沙弥郎さん(1922〜2024年)は1922年東京に生まれ、柳宗悦の「民藝」と芹沢銈介のカレンダーとの出会いから染色の道に進まれました。

 

染色のほか、版画、立体作品、そして個性的な絵本を作り出してこられました。

 

柚木沙弥郎さんについてはこちらの公式サイトに詳しく紹介されています。

 

翻訳をした金関寿夫さん(1918〜1996年)は米国文学・米国文化研究者。

 

米国現代詩やネイティブインディアンの文化を研究、たくさんの翻訳されています。