「ふゆめ がっしょうだん」冨成忠夫・茂木透写真 長新太文 福音館書店 1986年 定価900円
私たちsakaguraは絵本専門士2人のユニットです。働く大人にもぜひ絵本を届けたいと願い、活動をしています。
大寒が過ぎ、東京では雪が積もりました。
まだまだ寒さは厳しくて、「冬」を感じる今日この頃ですが、気づかないところで春は始まっています。
「みんなは みんなは きのめだよ」という言葉から始まるこの絵本。
木の芽の冬姿を拡大した写真と、それに添えられた言葉からできています。
見返しには次のような解説があります。
「顔にみえるところは、実は、落葉した葉の柄が付いていた跡です。
その中に、目や口のようなもようがありますが、これは葉に養分を送っていた管の断面です。
この顔の上にあり、円形や円錐形をした部分、これが冬芽で、これから葉や花になるものが中に小さくたたまれていて、春を待っています」
それにしても、見れば見るほど「顔」です。
どの冬芽も、ぴったりの帽子や衣装まで身につけて、
表情豊かに何かを語りかけているかのよう。
自然の妙、造形の不思議さ、面白さを伝える科学絵本としても素晴らしい作品なのですが、
私の心を揺さぶるのは、長新太さんの紡ぎ出す言葉と世界。
「はるに なれば もっと きれいに なるんだよ」
「たいようも かぜも すてきねえと ニコニコするよ」
この写真に、この言葉…。
そのセンスにただただ感嘆してしまいます。
小さく、魅力あるものたちへの愛情に溢れた、
優しく語りかけるような文章で、
一つの素敵な物語が生み出されていきます。
見返しには、この絵本に登場する25種類の木の名前もちゃんと書いてあるのですが、
オフィス街にも、大きな通りにも、近所の公園にも木はあるのに、目をとめる余裕がない日々。
今しから見ることのできない木の芽の姿を、
私も探してみようかなと思います(不審がられない程度に!)。