「すばらしい季節」 ターシャ・チューダー作 末盛千枝子訳 現代企画室 2014年6月18日 1500円


{41A8D970-8EE0-4710-8640-3E470D8C9B32}


前回のブックレビュー「にぐるま ひいて」を読んで、この本をとりあげたくなりました。

 

私たちsakaguraは、絵本専門士の女性二人のユニットです。


私たちが暮らす東京は、自然あふれる環境とはいい難く、また、絵本専門士としての活動のほかに、それぞれ長く続けている仕事を持ち、四季の移ろいとも遠くなりがちな毎日。

 

でも、こんな都会の生活でも、ちょっとした自然の変化を感じる心を持つことができれば、日々の生活は平穏な幸せに満たされるような気がします。

 

そのようなことを思いながら、今日は、働くあなたにこの1冊を紹介したいと思います。

 

ターシャ・チューダーは米国マサチューセッツ州ボストン生まれの絵本作家。2008年に亡くなりましたが、都会の生活から距離をおき、ひっそりと農場に暮らす彼女の開拓時代のような生活は、日本でもテレビなどで放映され、ご存知の方も多いかもしれません。

 

1938年に絵本作家デビューして以来、100冊を超える絵本を生み出した中の一冊。


農場に住む少女サリーが全身で感じ取る、冬から春へ、夏から秋へ、うつりゆく季節の喜びを描いています。

 

表紙を開くとすぐに、扉、見開きから、慈しまずにはいられない、美しいリボンや果物、小動物の絵が、読者を迎えてくれます。

 

最後の1場面をのぞいて、どのページも、ページ上3分の2ほどに、透明感のあるさわやかな自然の風景と愛らしいサリーや動物たちを描いた絵、その下に文章というレイアウト。


変化のない一貫したレイアウトは、絵の穏やかなトーンとあいまって、静けさと安定感を生み出しています。

 

テキストは「あじ」「におい」「おと」など五感で感じる季節の「たのしみ」をサリーとともに経験させてくれます。読んでいるうちに、私は、ただ季節が変わる、新しい季節がやってくるというそのことだけで、わくわくしていた、そんな幼いころの自分を思い出しました。

 

原題は「First Delights:A Book About Five Senses」。直訳すれば、「最初の喜び:五感についての本」という感じでしょうか。

 

最後の場面は、雪に埋もれた農場が月明かりに照らされる遠景が描かれています。これがサリーが住む世界ですね。


そして、そのページには、

 

「あなたのまわりにも

こんなすばらしいことが たくさんあって

きっといつも あなたが 気づいてくれるのを

まっています」

 

という一文。

 

私も、自分が暮らす日常の世界にある「すばらしいこと」に気づき、存分に味わっていきたいです。