花水木きれい通院十年め
北窓開くおしっこの床を拭く
空豆を茹でて娘の恋の話
吊るしたるバナナに声を掛けて寝る
子を叱るわが声高し五月闇

 水須さんは千葉県山武郡に住む。昔、伊藤左千夫の文学史蹟を訪ねて現在の千葉県山武市へ行ったことがある。たしか結婚して間のないころだった。地元の教育委員会に宿を世話してもらったのだが、飲み屋の2階みたいな宿だった。畳には煙草で焦げた跡がいくつもあった。ヒヤマさん(妻)によると、今までに泊まった一番汚い宿だった。でも、左千夫生家の椎の木や土蔵を今でも覚えているし、九十九里浜の波音も耳底に残っている。「よき日には庭にゆさぶり雨の日は家とよもして児等(こら)が遊ぶも」(左千夫)。七人の子を育てた左千夫のこの歌が好き。