匿名性という語があります。俳号などによって匿名化する(本名を隠す)ことで言いたいことが大胆に、自由に言えることです。おこぜ、岡山の蛸、桃日和などの号を用いると、本名からの解放感のようなものが生じ、大胆にも自由にもなります。匿名性は名前の大事な武器というか特色です。

 「店員が手とり足とりセルフレジ」(三階から目薬)、「パスワードつぶやきながら入れる父」(はなまる)、「オミクロン家族全員株主に!!(まだまだ隔離中)。これらは2023年版のサラリーマン川柳の人気句です。作者は見事に匿名化しています。川柳は匿名を武器にして批評性は発揮する表現と言えそうです。もっとも、川柳界の商業誌「月刊川柳マガジン」を見ると、多くの作者は姓名を示しています。サラリーマン川柳のようには匿名性を武器にしていないのです。でも、俳句雑誌よりは匿名の作者が多いように見えます。社会批判などを詠むことが得意な川柳は、匿名性によって批判性を高めているのです。

 匿名のもたらす解放感を重んじながら、完全に匿名化するのではなく、作者の存在感のようなものをも示す。それが今日の俳人の名(俳号)の一般的なありかたでしょうか。夏井いつき、小川軽舟、坪内稔典などの俳号がそれです。