松の蕊かなたに赤しここに青し

遠き木の元に猫居り春雷す

 石田波郷の句集『惜命(しゃくみょう)』は1957年(昭和32年)に出た。

有名な句「霜の墓抱き起されしとき見たり」「雪はしづかにゆたかにはやし屍室」

があるが、これらは俳壇的に話題になったが、かならずしも佳句ではないだろう。

俳壇的話題作だ。私見ではこの句集あたりから彼の句は停滞する。俳人として有

目になるのだが、一種私小説な俳句になり、その句から575の言葉の魅力が消

えてゆく。

 掲出した2句は作者が波郷であることを無視して鑑賞できる。小説的な域を越えて言葉が風景を作っている。春雷の句は猫が雷を呼んだみたいで幻想的だ。

  写真は石田波郷全集第2巻の口絵、昭和29年、41歳の波郷である。