新涼の書をよみ電車街に入る

新涼の書肆水うてり人のひま

台風や学生かへり街ゆけり

熱帯魚秋はどこにも菊咲けり

 

 『石田波郷句集』(昭和10年)から。なんども言ったが、この句集は作者によって、解体、棄却された。すなわち、多くの句が次の句集『鶴の眼』に編みこまれ、『石田波郷句集』はいわば捨てられた。今日の句についていえば、4句とも『鶴の眼』に収められている。「新涼風景」という題名は捨てられて。こいうことが波郷の俳句にどのように影響しているか、それを考えたい。

  捨てられた『石田波郷句集』だが、それが実際の彼の第一句集であったので、さいわいにも復刻版が出ている。昭和58年に「名著復刻 詩歌文学館(紫陽花セット)」の一冊として日本近代文学館が刊行したのだ(発売・ほるぷ)。これは古書店で1500円くらいで買える。

 電車の句は車内の読書、台風の句は東京・神田あたりのが学生街の風景だろうか。熱帯魚と菊の取り合わせは奇抜かも。