満塁で一本出ない暑さかな  北大路 翼

 

 昨日に続き句集『見えない傷』(春陽堂書店)から。「ナイターは負けたら行つた意味がない」もある。これらの句は、いわゆる俳句とは逸れた場所で発想されている。いや、この逸れるということが実はまさに俳句なのだ。

 「風鈴と同じ柱で首吊らむ」「昼寝して勃起が隠しづらいズボン」「蒲鉾はホットパンツの尻の形」「Tシャツの柄に育ちの悪さかな」「出張の前の情事や冷素麺」。「ひまはりが燃え尽きている実家かな」「無くていい希望と夏休みの宿題」。掲出句の周辺にある句を引いた。夏休みの句は意味が一つ、すなわち一義になっているのでほとんど川柳である。

 この作者、川柳に接した位置に立ち、自分の感覚に近い言葉で575を紡いでいる。ちなみに、彼は1978年生まれ、東京という大都市のなかで上のような位置を見いだしている稀有な俳人だ。