子どもの頃の今ごろ、蚊帳の中で目覚めました。飯台で朝ごはんを食べようとすると、ぱっと蠅が寄ってきました。70年前の話をしましたが、蚊帳も蠅も今はむかしになりました。これらを詠んだ俳句も今では古色蒼然です。

    近江蚊帳汗やさざ波夜の床(とこ)  桃青

 「六百番俳諧発句合」に出ている34歳ごろの作です。近江蚊帳は近江八幡あたりで作られた蚊帳でとても有名でした。その有名な蚊帳の中で寝ているのですが、汗が琵琶湖のさざ波のように吹き出して寝苦しいよ、というのですね。「さざ波夜」の夜に寄るが言い掛けられています。寝苦しいのですが、有名な近江蚊帳だし、琵琶湖のさざ波を感じるし、これはこれでいい夜だ、という気分なのでしょう。もちろん、実際の体験ではなく、「蚊帳」による題詠です。

 今、琵琶湖に行きたいなあ、という気分です。近江今津あたりで小鮎の天ぷらで生ビールなんていいなあ、と思っています。(6月22日)