*あくまで現時点で私が得られている情報を中心に書くのであしからず

 

ウクライナ侵攻も来月で丸1年となる状況、戦争の終わりは見えていませんが、個人的に気になっているのはロシアの民間軍事会社ワグネルの存在です。

 

各戦線の状況情報を見る限り、ワグネルが担当している戦線はかなり広大で、特に現在重要なバフムト戦域に置いて重要な役割を担っているようです。

 

実際の重要性やワグネルによる国防軍本体への批判など、かなり情報そのものを精査しないと見えてこないところはあるとは思うのですが、民間軍事会社というか大統領の私兵というかが軍事侵攻に置いて重要な役割を担っているというのはなかなかに特異な事態でしょう。

 

 

ただ、歴史的には民間と言いますか、国家以外の母体が軍事力を持つという体制自体は珍しいものではなく、むしろ近代の国民国家の成立が国軍の成立とかなり密接な関係にあっただけで、そうならないうちはほとんどが国軍ではない軍隊で戦争をしていたということになります。

 

国軍の成立経緯に関しては色々ありますが、国軍でない場合は国家そのものに忠誠を誓うわけではないから士気の面で不利だったとか、常に実働体制に置くためだったり新しい軍事兵器開発・購入や戦略に対応するための専門家を育て・維持するためには莫大な軍事費が必要であり、それは国家の徴税権がなければ困難だった、といった形で説明されることが多いです。

 

なので、もはや国軍が成立したら国軍以外の組織によって国軍の存在価値が脅かされることはないだろう、というのが大方の見方だったのですが、ワグネルの存在は、ロシアの徴兵拡大と共に一種の驚きを持って見られている所があると思います。

 

個人的にはGDPで言えば人口も国土も大幅に小さい韓国とほぼ同じレベルのロシアが、世界でもトップクラスの強大な軍隊を保持できているとは考えにくかったのですが、それでもここまで民間会社の存在が幅を利かせてくるとは思っていませんでした。

 

こうなった原因として考えられることはいくつかあるのですが、

1、国家主導による旧来型の処理では軍事の管理、実行において複雑な処理体系になってしまい、即応性がない。

2、さらに人員・装備の補充という面においても膨大な手続きをクリアしなければいけない。

3、官僚的な機構により縦割りの実行組織となってしまい、連絡・指揮系統に不備が生じる。

4、単純に国家の経済力が落ち込むと、軍隊の維持能力も落ちて力が低下する。

といったあたりが考えられ、これは日本においても楽観視できない部分かな、とは思っています。

 

もちろん、現在聞いている範囲でもワグネルの対応や能力が素晴らしいとは言い切れないのですが、それでも本家国防軍よりも動かしやすいからこそ、これだけ広く運用されているというのは間違いがなさそうです。

 

では、今後の軍事は国軍ではなく民間会社によるものを中心になっていくのか、というと普段割とあれこれ民営化賛成の部分が多い私でもまったをかけたいと思っています。

それは単純な軍事能力の維持活用という点で強調されてきた国軍の"本当の良さ"と"国家の実在意義"に関わってくるからです。

 

まず、国軍の本当の良さ、とは何か?

それは民間にとってかわられる原因として1-3に挙げた、"複雑な処理体系"と"官僚的な機構"です。

デメリットでしかないように見えるこれらの遅延を起こさせる処理は、むしろ内部における処理が均一的な思考とプロセスを経て実行されることを示しており、良くも悪くも実施される行動に一貫性があります。

結果、外からも中からもある程度行動を論理的に考察することが可能です。

これが処理体系も機構も取り払われてしまうと、我々は常に「何が起こるか分からない」不気味な相手と戦わなければならなくなります。

実際、ワグネルの戦法も無謀とも思える突撃を繰り返すものであるらしく、これはワグネルの実働・処理機構が国防軍とは異なるプロセスを経ている可能性が大きいと考えています。

ソ連時代の無謀な突撃をイメージさせることから「同じロシアだからそんなものだろう」と受け止めてしまう人も多いのですが、そのソ連も二次大戦の後半においてはかなり厳格な運用の元、各部隊を運用できる組織として確立しているので、"無謀な行動は組織の瓦解かそれに近い状態において起きている"と見た方が妥当です。

つまり、頭でっかちのお堅いやり方で統一されるというのは、仮に恐ろしい武器を持っていたとしてもそれが使用されるまでのプロセスには少なからない思考を経ていることが確定しているため、単純な脅威とならない、むしろ「安全を保障」していると言っても過言ではないわけです。

民間においても類似の体系というのは持つことはできますし、実際巨大な企業においてはそのような機構を持つところも少なくないのですが、こと軍事に関しては現時点においてそのような体制を持つ組織を作ることは現実的ではありません。

 

もう一つの、国家の実在意義、とは何か?

現在、国家という組織が持つ役割は多岐にわたっています。

インフラの提供や福祉、法律の制定、金融・経済の調整といったものをイメージする人も多いでしょう。

しかし、国家の根本は歴史的な背景を見ていくと、誤解を恐れずにいれば「暴力団」であることがほとんどであるでしょう。

つまり、その土地の範囲において安全を保障する代わりに税金という形でショバ代を請求する、というビジネススタイルです。

それが支配地域の内部的な調整にも手を出す必要に迫られ、単純な外敵が常に脅威であるわけではないことも加わって、インフラや福祉、法律、金融・経済の整備に役割を見出し、そのための収入、すなわち広範囲な税収も得る、という拡大を経ています。

このプロセスには多少の前後もあり、かつ金融からスタートして傭兵という私兵を雇うことで成立したという国家もあるのですが、近代における国民国家の成立においては少なからず周辺ないし支配下における軍事的脅威の解決というのが主眼になっています。

なので、現在の国民国家の形式を大幅に変えてしまい混乱させてまでも達成する必要があるということが見込めないのであれば、少なくとも軍事面における実働意義だけはある程度維持しなければならないことになります。

もっと言えば、見合った軍事力を保持できないロシアのような国は民間会社に頼る以前に少なくとも侵攻戦争をするべきではなかったということを強く世界は認識するべきだと思います。

 

ここで難しいのは国軍のデメリットでもある「国家経済の減少」がすぐに国軍の維持にも響いてきてしまうことです。

そして経済力はよっぽどの特殊事情か技術力を持たなければ人口と相関するため、人口が減りつつある国は悉く軍事力の減少に悩んでいます。

 

その解決策として見出されるのがEUおよびNATOに代表される複数国家による軍事同盟を超えたもはや複数国家による合同軍事組織の設立になっていくわけで、今回のウクライナ侵攻においてもこの流れに乗れる国とそうでない国の衝突ともとれるわけなのですが、この辺りはもう少し時間をおいて情報が整理出来てから書いていきたいと思います。