前回は、わたしの先祖の郷土
群馬県の吉井町、川内(かわうち)にある
小字(こあざ)
『滝の宮(たきのみや)』
について書きました。
字名からは「滝のある宮(神社)」…
『水神』が祀られていた
だろうことが推定できます。
(現在は宅地化され一帯に神社が
あった痕跡はありません)
この場所にはかつて
『不動寺(ふどうじ)跡』があり
行場として利用されていました。
(※ちなみに「不動寺」とは、お不動さんとして
親しまれている「不動明王(ふどうみょうおう)」
を信仰するお寺のことです)
付近には「弁天谷」という字もあって
(現在は字「吉井川」となっています)
「弁財天」の鎮座する「谷」…
『女性神』の気配もあります。
「滝」「水神」「不動寺」「女性神」と
くれば、祀られる神は彼女しかいない
滝の宮には『瀬織津姫(せおりつひめ)』が
祀られていたのではないかと書きました。
彼女は謎の多い神とされますが
彼女を祀る神社は全国に
けっこうあり、何も手がかりがない
というわけではありません。
今回は『瀬織津姫』をテーマに
① 彼女はいったいどのような神か?
② なぜ「不動寺」とつながるのか?
「斎藤考」的に書いてみたいと思います。
(とくに②については
前回書ききれず消化不良をおこしていました!)
まずは①
謎の女神『瀬織津姫』の実体についてです。
『瀬織津姫』って、どんな神さま?
「瀬織津姫」は
『古事記』『日本書紀』には
記されない謎の多い女神とされています。
彼女が唯一登場するのは神道の祝詞
「大祓詞(おおはらえのことば)」の一部分で
「速󠄁川瀨(はやかはのせ)に坐(まし)ます
瀨織津比賣(せおりつひめ)と云(い)ふ神(かみ)
大海原(おおうなばら)に持ち出でなむ…」
といったように、急流部の川辺にいて
人びとの罪や穢れを海に流し清めてくれる
「祓(はら)えの神」と解釈されています。
このことから彼女は
「滝」「川」を神格化した存在
とされているのですが
じっさいに社名に「滝」とつく神社に
祀られているケースは多いです。
・『瀧川神社(たきがわじんじゃ)』
(静岡県三島市川原谷755-1)
祭神 瀬織津姫
箱根山からの湧水が流れる滝・川があります。
別名「瀧不動」とよばれています。
『かわうち』と『瀬織津姫』は関係する?
注目したいのは
『川内・河内(かわうち)』という社名で
彼女を祀る神社も
いくつか存在することです。
この「かわうち」と「瀬織津姫」との
関連は偶然ではないと思います。
・『川内神社(かわうちじんじゃ)』
(新潟県村上市中継1204)
祭神 瀬織津姫命
先祖の郷土、群馬県の吉井町
「川内」は大沢川・鏑川という
二つの川に挟まれており
「川」が瀬織津姫とするなら
「かわうち」とは
彼女に挟まれた(抱かれた)場所…
「瀬織津姫」信仰の強い土地柄であった
このような解釈も
おもしろいと思っています。
さて、彼女が「川」「滝」に
ゆかりが深いことはわかりました。
神道の「大祓詞」でも
そのように記述されているので
納得できる説です。
ですが、彼女は「川」や「滝」だけ
ではなく、もっと多彩な姿をもって
いるように思います。
それは②の
「なぜ彼女と『不動寺』がつながるのか?」
から推測することができます。
キーワードは『自然崇拝』です。
さて②の「瀬織津姫」と「不動寺」に
ついてみてみましょう!
『瀬織津姫』と『不動明王』との関係
ところで『不動寺(ふどうじ)』とは
どのようなお寺でしょうか?
不動寺とは
『不動明王(ふどうみょうおう)』を
信仰するお寺のことで
よく寺院をおとずれた際に
剣をもち、背後から炎を立ち上げて
いる仏像をみたことはないでしょうか?
あれこそが不動明王で
「炎」を背負い不浄なものを
焼き払う仏さまです。
(怒りの表情し、煩悩に苦しむ人びとを
力づくで救うという、いかめしい側面があります)
『不動明王』は
(別名「不動尊」「お不動さま」)
かならずといって良いほど
滝のそばに祀られていて
全国にはたくさんの
『不動滝(ふどうたき)』が存在します。
(その正確な数はわかりませんが滝の名称としては
日本でもっとも多いと思われます)
瀬織津姫は、滝の女神でもあり
滝そのものがご神体…自然崇拝という
観点からみれば、彼女を信仰するのに
特別な社殿はいらないので
滝のそばに不動寺があれば
「瀬織津姫」・「不動明王」という
(「神道」と「仏教」による)
二者の融合
『神仏混淆(しんぶつこんこう)』は
成立していることになります。
しかも不動明王は「男性」とされ
明王の「火」は「日(太陽)」に通じ
瀬織津姫の「水」と対立概念となっていて
見事なまでの両者異質な
「女・男」「水・火」という
『ヒメ・ヒコ』祭祀となっています。
滝と不動寺の裏には「瀬織津姫」がいる…
瀬織津姫は「不動滝」という名のもと
修験道によって、ひそやかに祀られて
きたのではないでしょうか。
『水源』としての『瀬織津姫』
伝説によれば、修験道の開祖は
「役小角(えんのおづぬ)」ですが
彼が開基となった
「金峯山寺(きんぷせんじ)」は
奈良県吉野郡の『吉野山』の中腹に
あります。(前々回、桜の名所として書きました)
吉野はヤマトの先住民
「国栖(くず)」が居住し
吉野山は一帯の水源
『水分(みくま)り』としての
性格をもっていました。
また、岩手県の『早池峰山(はやちねさん)』
一帯も瀬織津姫信仰の強い土地柄ですが
周辺河川の源となっています。
・『早池峰神社(はやちねじんじゃ)』
(岩手県遠野市附馬牛町上附馬牛第19地割81)
祭神 「瀬織津姫命」
滝・川の女神「瀬織津姫」は
水をもたらす『山神』としての
性格ももつようです。
天のイカヅチ『竜神』としての『瀬織津姫』
そして水をもたらすといえば
『雷(かみなり)』です。
天の蛇「イカヅチ」は
黒雲とともに雨(水)をもたらし
高所(山)の樹木に降臨(落雷)し
炎をもたらします。
早池峰山の女神「瀬織津姫」は
「黒蛇大明神」とも呼ばれていますが
黒い蛇とは、「雷」を比喩しては
いないでしょうか。
天の蛇(竜)…瀬織津姫によって
水は火とともにやってくる。
「瀬織津姫」と「不動明王」…
『水』と『火』というまったく
異質な両者が強烈にむすびつくのは
古代人の素朴な自然観が反映されて
いるからだと感じています。
上野国(群馬県)一宮
『貫前神社(ぬきさきじんじゃ)』の後背地
「神成山(かみなりやま)」には
『幻の滝』があります。
雨が多く降ったときにだけ
出現する滝で地元の田畑をうるおします。
「瀬織津姫」は自然神であり
(「滝」「川」だけでなはなく)
『山神』『蛇神』『雷神』
としての神格をあわせもつ。
そしてこれらすべての神格は
古代人の自然観の中で
(すべてが「自然現象」としてつながった)
『一つ』の神格では
なかったかと想像(妄想)しています。
続きます。