役者を目指すと決めた時、

地方在住者にとっては、

まずは東京に出るということが一つのステップであり、壁でもあります。

 

私も故郷の宮城県から、高校卒業と同時に上京し、

東京で一人暮らしをしながら専門学校に通っていました。

 

実は初めは、宮城県内の専門学校で演技を学ぼうと考えていましたが、

役者や芸能界について調べたり、

専門学校の体験入学に行った時に、

その学校の講師をされていた現役の役者さんに話を聞いたところ、

テレビや映画、商業演劇、声優など、そういう仕事を本気でやりたいなら、

いずれは東京に出ないといけないし、

学校で演技などを学ぶにしても、

東京にいれば在学中からオーディションを受けることも出来る。

ということを教えてもらい、

 

地元を離れること、親元を離れることに対して、正直不安はあったのですが、

意を決して上京することを決めました。

 

上京して一人暮らしをしながら夢を追う。

 

ドラマやお話にもよくありますし、響きは格好良いですが、

家賃も高いし、学校の近くだとさらに家賃が高いため

少し離れた駅のアパートに住むことにしたので、片道1時間以上かかりますし、

 

生活費も自分で稼がないといけないため、

学校の授業が終わってから舞台のための稽古をして、

それから帰って、夜バイトしてという生活は、

覚悟はしていたものの、

かなりしんどいものでした。

 

そんな中で、

元々東京近郊に住んでいて、実家から学校に通っている同級生のことはかなり羨ましく、

むしろ、「ずるい」、「不公平」だとさえ思っていました。

 

上京組はみんなそういう気持ちを持っていたと思います。

 

自分も東京出身だったら、実家が近くだったら、

生活費の心配もなく、

バイトの時間も減らして稽古に時間を充てることも出来るし、

そうしたらきっと、もっと上手くなるはずなのに。

元々東京近郊に住んでいる同級生と自分たち上京組では

お金や時間の面で、最初からハンデがあるじゃないかという妬みの気持ちがありました。

 

それから10年近く経った今、

当時の同級生やその後に芝居をする中で出会った人たちの中で、

まだ芝居を続けている人には、やはり東京近郊の出身者が多いです。

 

事実として、

東京出身で実家住まいの人より、地方から上京して芝居をやる人の方が、

長く続けていくことが難しいのは間違いないと思っています。

 

それでも、地方出身でもまだ芝居を続けていて、

地元に戻るつもりも、実家に帰るつもりもなく、

東京で役者として生きていく覚悟を決めている仲間たちもいます。

 

私はもう役者を辞めましたが、

本気で続ける覚悟をしている彼ら彼女らのことは、

ずっと応援していきたいと思っています。

 

その一方で、

希望と熱意を持って上京してきて、懸命に役者の道を歩んできたものの、

お金の問題や様々な壁にぶつかって役者を続けるか別の道へ進むのかを考えるべき時がきたのに、

続けるか辞めるかの決断をせずに、

中途半端にしたまま時間が経ってしまって、
役者を辞めているのか続けているのか分からない、
宙ぶらりんな状態になってしまっている仲間もいます。
彼らが一番苦しんでいます。
 
本気で一生芝居を続ける覚悟をした仲間たちと、
私のように辞める決断をして別の道を、後悔なく歩んでいる人間のあいだで、
決断しきれていない彼らは揺れています。
 
だからこそ、今、役者を続けるか辞めるかの悩みの中にいる人には、
悩みや不安の根源と向き合って、しっかりと後悔のない決断をしてほしいと願っています。

私が小劇場で芝居をし始めた時に驚いたのは、

小劇場で公演している劇団の劇団員同士で、お互いに公演を見に行き、

それで観客席のほとんどが、芝居をしている人だらけになるということでした。

 

小劇場の世界に入るまでは、

劇団など、芝居に関わる人が公演をうつ

学生や社会人など、芝居に関わっていない人が見に来る

という構図なのだと思っていたのですが、

実際は公演を見る方も、ほとんどが芝居関係者や、出演者の家族か知人なんですよね。

 

これに驚きました。

 

なぜ観客のほとんどが関係者になってしまうのかといえば、

小劇場で公演している劇団には、集客力がないことがほとんどで、

出演者やスタッフにチケットノルマを課して、

課された方はそれをクリアするために、

家族や友人、他の劇団や事務所に所属している芝居仲間に

チケットを買ってもらうことが多いからです。

 

そして、観にきてくれた芝居仲間が出演する際には、

今度は自分が見に行く。

ということを繰り返しています。

 

もちろん、他の劇団の芝居を見る、他の人の演技を見る

ということは自分の演技の勉強につながりますから、

そういう意味でもお互いに観劇することには意味はありますが、

小劇場の芝居であっても、チケットは3000~4000円することが多いです。

 

複数の劇団の公演を見に行こうと思うと、

2~3ヵ月か、それよりもっと短いスパンで公演がありますので、

貧乏が常である役者には観劇のチケット代だけでも大きな負担になりますし、

時には差し入れや、

お世話になっている先輩が出る舞台に花を贈ったりすれば、

出費はどんどんかさみます。

 

そうして、小劇場の世界では、

劇団同士が、お互いがお互いの集客を支え合って

ぎりぎりのところで公演を続けています。

 

芝居関係者ではない一般のお客さんが多く入ってくれれば、

そんなことをする必要もないのですが、

小劇場の芝居を観に来てくれる一般のお客さんは本当に少数です。

 

映画であれば、多くの人が映画館に観に行ったことがあると思いますが、

小劇場の場合は、その存在すら知らない人がまだまだ多いのです。

 

映画はテレビでCMを流すことも出来るし、

全国の映画館で同時に上映することが出来ます。

しかし小劇場の芝居は、

運営費もカツカツでやっているためテレビCMなんか流せるわけもありませんし、

舞台は生身の役者が演じるため一気に複数箇所で上演することもできません。

 

その結果、小劇場での芝居はどうしても認知度が低いです。

 

東京には小劇団が何百とありますが、

ほとんどが名の知れていない劇団です。

小劇場の芝居が好きな人は、自主的に調べてくれますが、

そうでない人までは情報が届いていないのが現実です。

 

そうした、小劇場での芝居を見たことがない層の方々を集客できない限り、

芝居関係者同士での観劇の輪から抜けるのは難しく、

良い芝居を作って有名になって、ファンを増やすという目標を掲げながらも、

そこに至るまでは結局、働いて稼いだお金を芝居のために使うという、

お金の苦労を耐えねばならない。

 

結局耐え切れず辞める役者、解散する劇団が多いです。

 

演劇をする人、役者を志す人がこれだけ多いのにも関わらず、

観る側には映画のような認知度も、人気もないという業界のあり方が、

役者を貧乏にして、生半可な気持ちでは役者業を続けていくことが難しいものにしています。

 

しかしまた、

小劇場の世界には、

参入するのも、抜けるのもそれほど難しくないという側面があり、

それが辞めているのか続けているのか分からない宙ぶらりんな役者を

多く生み出しています。

 

私の専門学校時代の同期や後輩にも、

続けるか辞めるかの決断をせずに、
中途半端にしたまま時間が経ってしまった役者仲間が何人もいます。
そしてその状態は、間違いなく一番良くない状態です。
役者として生きる覚悟も、役者を辞めて別の職に就いて生きていく覚悟も
持たず、ただ時間が経って選択肢が減っていくことに不安を大きくするだけですから。
 
本気で一生芝居を続ける覚悟をした仲間たちと、
私のように辞める決断をして別の道を、後悔なく歩んでいる人間のあいだで、
決断しきれていない彼らは揺れています。
 
だからこそ、今、役者を続けるか辞めるかの悩みの中にいる人には、
悩みや不安の根源と向き合って、しっかりと後悔のない決断をしてほしいと願っています

売れない役者とお金の悩みは切っても切れない関係にありますが、

今回は私が芸能事務所に所属していた時に持っていた、お金の悩みです。

 

20~21歳の時、東京都内の芸能事務所に所属していました。

なかなかオーディションにも通らず、

ドラマや映画などに出たくても出られない日々でしたが、

 

時々、事務所の先輩のライブとかイベントにちょこっと出演させてもらうことがありました。

 

それは嬉しいのですが、やはりここでもお金の問題があります。

まず、当然のようにギャラは出ません。交通費も出ません。

そして衣装も用意してはもらえませんので、自分で用意する必要があります。

 

当時事務所のレッスンに通って芝居の勉強をしながら、

合間にバイトをして生活費を稼いでいましたが、

服にかけるお金など無かったので、何年も同じ服を着ていましたし、

オシャレな服なんか持っていませんでした。

 

ですが、先輩と一緒に出るイベントで、事務所の社長やマネージャーも見に来ますし、

とにかく汚い、ダサい格好はNGで、

ハイブランドを着ろとまでは言われないまでも、

それなりに高い服を着ないといけませんでした。

 

貯金なんか無いですし、

生活費を削って、なんとか服を買って、ほんの少しだけイベント出演する。

 

しかもそれが年に数回あればその都度買うことになったので、

けっこう出費になりました。

 

そうしたイベントにメインで出演していた先輩も、

やはり駆け出しの頃は服やヘアメイクも自腹でやっていて苦しかったと言っていました。

 

こうした、いわゆる下積み時代には、

衣装などは自腹で用意するのが当たり前で、

仕事であってもギャラが出ないのも当たり前というのが、

芸能界の厳しいところです。

 

しかも突然、前日などのぎりぎりのタイミングで

明日のイベントに出てくれと言われたりすることもありました。

 

前日の夜に依頼が来て、

しかも服装の色などの指定があったりして、

当日のぎりぎりに服を買いに行って、店員さんに見立ててもらったこともありました。

 

直前にそうした仕事が入ると、

バイトを休まねばならなくなり、

収入も減って余計に生活が苦しくなる。

 

仕事をするほど貧乏になるような

下積み時代があるのは仕方のないことかもしれませんが、

それがいつまで続くのかも分かりませんし、

役者で食えるようになるとも限りません。

 

若い時はそれでも楽しめるところもありましたが、

状況が変わらないまま20代中盤、後半、30代と過ごしてしまった先輩もいて、

その先輩に「若いうちにしっかり考えた方が良いよ」と言われたことが、

私が自分の進退をしっかり考えるきっかけのひとつになりました。

 

今考えても、

そういうことを言ってくれる先輩がいることは、とても有難いことでした。

 

結果的に私は、それから4年後に役者を辞めました。

役者として後悔の無いように活動し、舞台に立ち、そして前を向いて次の道に進む決断しました。

 

大事なのは役者を「続ける」か「辞める」かを決断することです。

 

惰性で続けるのではなく、

逃げで辞めるのでもなく、

ましてやどちらも選ばずに無為に時間を過ごすことのないように、

 

今、役者を続けるか辞めるかの悩みの中にいる人には、

悩みや不安の根源と向き合って、しっかりと後悔のない決断をしてほしいと願っています。

 

私が23歳の時、

中学の頃仲の良かった地元の友達が結婚して、

地元で結婚式を挙げるからと招待状が届きました。

 

22、23歳あたりになり、大学に行った友達が卒業してしばらく経つ頃になると、

ちらほらと、こんなお知らせを聞く機会が増えますよね。

 

役者をやっている時、つらかったことのひとつに、

こうして昔の友人たちが結婚したり子供が出来たり、

会社で役職についたりといった、

おめでたいことを報告してくれた時に、

どうしてもお金や社会的地位の無い自分と比較してしまう

ということがありました。

 

それはもう、先輩の役者からも、そういう愚痴はきいていましたし、

劇団の仲間でもたびたび話題に上りました。

 

結婚式をすると聞いて、すごくおめでたいし、招待してもらってありがたいのに、

ご祝儀や交通費を出すことが出来ないぐらい貧乏でしたので、

誰かから借金をするか、どうしようもなくて結婚式に出席できない時もありました。

 

仕方のないことだと思うのですが、

やはり自分のお金の無さが悲しかったですね。

 

普段は役者や、芝居に携わる仲間たちといる時間が多いので

あまり気にならなかったことでも、

会社勤めをしている友達と話した時に、ふと境遇を比較してしまって、

一気に不安になってしまう。

 

20歳ぐらいであれば、そんなこともまだ少ないでしょうが、

大学を出て少し経つぐらいの年齢になると、

同級生と自分との違いを感じてしまうことも増えてきてしまう。

 

私自身や、専門学校の同級生たちには、そういう経験をした人が多かったです。

 

 

鴻上尚史さんが書いていた記事で、面白いものがありました。

プロの俳優を目指している人がその夢を諦める年齢が、

世代によってだんだん早まってきているというものです。

 

鴻上さんの先輩たちは35歳くらいまで頑張ってプロを目指して、

それでもダメなら諦める人が多かったそうです。

鴻上さんの世代では、30歳前後がその基準になりました。

そして最近ではさらに早まり、25歳過ぎで辞めていく人が多いということです。

 

確かに、私も25歳になる前に辞めていますし、

その年齢でも、既に就職するのが厳しいのではないかという恐怖心を持っていました。

 

原因として考えられるのは、

やはり不景気ということもありますし、

鴻上さんが書いていたのは、

テレビで活躍しているような俳優やアイドルの低年齢化が進んでいるということでした。

 

鴻上さんが20代の時代は、

20代後半でデビューしたり、30代で売れる人がそれなりにいたような気がするとのことで、

 

そういう時代であればこそ、

役者を目指す人も、30歳でも売れる可能性はまだまだあると信じ易かったのかもしれませんが、

 

最近は10代半ばから、ぎりぎり20代前半までが「新人」の年齢になり、

20代半ばでも新人と名乗るのが難しくなってきたという現実がある、とのことで、

20代半ば以上で売れることを目指すのは、昔よりもより大変だという話でした。

 

子役から芸能界に入るとか、

中学生や高校生のうちからオーディションを受けたり、

あるいはスカウトされて芸能界入りした子たちが

ドラマや映画の主役になることが多い現在では、

 

やはり高校を出てからや大学を出てからでは、

ドラマや映画俳優としてのデビューは難易度が高いのは紛れもない事実でしょうし、

 

20代後半でデビューする人も多かった世代と今では、

役者や芸能界を目指す人たちが、

その夢を諦める年齢が早くなるのも無理からぬことだと思いますし、

鴻上さんもそのように書いていました。

 

僕も24歳で役者を辞め、30歳になった現在は結婚もしています。

近々結婚式を挙げる予定で、同世代で現在も役者を続けている友人も招待していますが、

喜んで出席すると言ってくれています。

 

今年で30歳になった彼らもまだ役者だけで食えてはいませんが、

やりたい芝居を作り続けて、小劇団から中劇団と呼べるようなところまで自分たちの劇団を大きくしてきた彼らは、

もう自分の道を疑っていないようです。

 

 

役者を辞めた僕も、自分の道を後悔していません。

辞める決断をしたタイミングも、振り返って考えると良かったのかなと思います。

役者の道は、他の一般社会の道と比べると、

不思議なくらい整備されていない道です。

 

大変な道です。

 

一般社会の道を行く人と自分を比べた時、

羨ましく思ったり、不安に思うことがあると思います。

 

不安を無視して、根拠の無い自信だけを持って役者を続けても、

うまくいかずに年齢を重ねた時に後悔します。

私は役者の先輩や後輩、仲間たちがそうした後悔をしている姿を何人も見てきました。

 

社会人の友達と役者の自分を比較して、不安になってしまうのであれば、

お金がなくても、いつまでも売れなかったとしても、

後悔せずに役者の道を歩けるのか、

報われなかったとしても努力し続けることが出来るのか

ということを本気で考えてください。

 

役者を続けるのも辞めるのも自分の決断です。

会社と違って「役者」をクビになることはありません。

 

役者の勉強を始めた時、

社会人の友達と自分を比べて不安になることはなかったと思います。

芝居、役者に夢中であれば、きっと不安になることもないでしょう。

 

不安を感じるのであれば、それはしっかり自分の気持ちと向き合わねばならない時です。

 

このブログでは何回も言っていますが、私には
続けるか辞めるかの決断をせずに、
中途半端にしたまま時間が経ってしまった役者仲間が何人もいます。
彼らが一番苦しんでいます。
 
本気で一生芝居を続ける覚悟をした仲間たちと、
私のように辞める決断をして別の道を、後悔なく歩んでいる人間のあいだで、
決断しきれていない彼らは揺れています。
 
だからこそ、今、役者を続けるか辞めるかの悩みの中にいる人には、
悩みや不安の根源と向き合って、しっかりと後悔のない決断をしてほしいと願っています。

 

役者を続けるか辞めるかを考えている後輩から、
 
「親の反対を押し切って、上京して劇団員になったけれど、もし辞めたら地元に帰りたいんです。でも、上京してからはほとんど連絡も取っていなくて帰りづらいし、親の意見も聞かずに絶対に役者で食っていくと言って飛び出した手前、辞める決断もなかなか出来なくて悩んでいます。」
 
と相談を受けたことがあります。
 
 
芝居の道に進むときの状況ってひとそれぞれで、
親や家族が応援してくれていた場合もあれば、
彼のように親の反対を押し切って芝居を始めたひともいると思います。
 
私の場合は、
親に初めて役者になりたいと打ち明けた時には若干反対されましたが、
何回か話をした結果、納得して応援してくれるようになりました。
 
専門学校時代の同級生に聞いた中では、
親が応援してくれているという家庭が多かったように思います。
 
ただ中には、やはり親に認めてもらえず、
半ば家出のような形で学校に入ったという人もいました。
 
専門学校僕に入学した当時、私たちはまだ18~20歳くらいでしたので、
親に自分の夢を応援してもらえないことは、結構つらいことだったと思います。
 
なんで認めてくれないのかと不満に思ったり、
俺は絶対成功するんだ!と意固地になったりする気持ちがあったでしょう。
 
何としても成功してやる!有名な役者になってやる!
と強い希望と熱意を抱いて、役者の道に飛び込んだけれど、
お金の問題など、色々な壁にぶつかって、
辞めようか続けようかと考える段になった時、
親の反対を押し切って芝居の道に入った人は、
芝居を辞めたことを親に言えない、地元や実家に帰りたいけれど帰れない。
という悩みを抱えてしまうことがあります。
 
そんな時に初めて、
親が役者の道の厳しさを分かっていて、心配して反対していたのだということが分かったりするものです。

すべての親がそうとは限りませんが、
役者や芝居で食べていくことの難しさや、
一般的な職業との違い、職業としてのつぶしのきかなさを知っているからこそ、
子供を想うが故に反対するというのもあるでしょう。
 
 
話を戻して、冒頭の後輩からの相談への答えを、
実際に親の反対に遭いながら役者の道に進み、志半ばで役者を辞めた知り合いの体験から考えてみたいと思います。
 
高校卒業後に上京して専門学校に通い、役者の道に進んだ彼は、
親の反対を押し切ってその道に進んだために、
経済的な援助も受けられませんし、他の上京組が帰省する正月やお盆などにも、
帰省することもなく、親に連絡を取ることもありませんでした。
 
学費、生活費も自分で支払わねばならないため、
学費は奨学金を借り、
生活費は学校が終わってから飲食店のバイトと、
更に新聞配達で稼いでいました。
 
本当に大変な環境で、
毎日3時間くらいしか寝ていないと聞いて驚いたことを覚えています。
そこまで出来るのだから、
彼の役者になることへの熱意は本物だったと思います。
 
それでも結局、彼は学校を卒業した後、
養成所を転々とした末に役者を辞めました。
 
役者を辞めた後も、学費に使った借金だけは残りました。
 
親には結局、役者を辞めた後も連絡を取っていないし、
実家にも地元にも帰っていないようです。
 
彼の場合は、役者を辞めたことを親にも言わない。
地元にも帰らない。
という決断をしました。
 
しかし本当は地元にも実家にも帰りたいと言っていました。
 
彼は専門学校時代、全く休まなかったし、芝居にも手を抜かなかった。
その上睡眠時間を削って生活費や学費を稼いでいた。
睡眠時間も短いのに疲れた顏をしないので、あだ名は「サイボーグ」でした。
同級生も、先生も彼の努力を認めていたし尊敬していた。
 
それでも役者で食っていく夢は叶いませんでした。
それだけ厳しい世界で、
必死でやったから必ず食っていけるようになる仕事ではありません。
 
私自身も必死で目指して、それでも届かず、
先輩や後輩や、同級生も、
努力家でも芝居の上手い人でも、
ほとんどが辞めました。
 
それを何年も、何人も見てきましたが、
本気で役者を志した人はみんな、辞める決断をするのにも苦しみぬいています。
 
決断するのが怖くて、
役者を続けているのか辞めたのか分からない状態で年月が経ってしまった人もいます。
 
辞めたのに、
次に何をするでもなく「フリーター」で過ごしてしまう人もいます。
 
 
私が、相談してくれた後輩に伝えたいことは、
「中途半端にしないこと」です。
 
「親に言いづらいから続ける。」
「辞めても地元に帰れない。親に話せない。」
 
という考えでは、
続けたとしても売れるまで耐え続けることは出来ませんし、
辞めたとしても、自分が夢に向かってやり切ったと思えないのではないでしょうか。
 
親に話した時、
すぐには話を聞いてくれないかもしれない。
だから役者なんかやめろと言ったのに。と言われるかもしれない。
 
それでも良いと思います。
本気で芝居に打ち込んだ。役者をやった。のであれば、
親もいずれ分かってくれるでしょう。
 
それよりも何よりも、
反対していた親に自分の正直な気持ちを話せた時、
自分が夢を叶えるために歩んだ道を否定せずに、
次に進めるはずです。
 
それが大事。
 
だから親に反対されていたことが原因で、
役者を辞める決断が出来ないのであれば、意を決して親と話す。
 
そしてしっかり、次に何の仕事がしたいのかを考える。
その仕事に就くために何をすべきか、
資格が必要なら資格を取る、実地で経験すべきなら即刻中途採用に応募する、
といったステップを考えて、行動に移す。
 
もう一度言いますが、私には
続けるか辞めるかの決断をせずに、
中途半端にしたまま時間が経ってしまった役者仲間が何人もいます。
彼らが一番苦しんでいます。
 
本気で一生芝居を続ける覚悟をした仲間たちと、
私のように辞める決断をして別の道を、後悔なく歩んでいる人間のあいだで、
決断しきれていない彼らは揺れています。
 
だからこそ、今、役者を続けるか辞めるかの悩みの中にいる人には、
悩みや不安の根源と向き合って、しっかりと後悔のない決断をしてほしいと願っています。