どこに新駅を設ければ、利用者数が多くなりそうなのか

 

現在の鉄道網の中に、新たに鉄道を開通させて新駅(※1)を設ける場合、どこに駅を設ければ、利用者数が多くなりそうでしょうか。

 

これまでの記事では、以下のような予想を起点として、分析(※2)を行ってきました。

 

  • 周辺に人口や従業者数が多ければ、その分鉄道需要も大きくなり、利用者数が多くなるだろう。
  • 既存の路線の駅から近い場所よりも遠い場所の方が、需要の食い合いが少なく、利用者数が多くなりやすいだろう。

また、分析過程では、次のような傾向にも行き当たりました。

 

  • どの路線の駅であるかも、駅の利用者数に大きな影響を与えているようである。

これらを踏まえて組み立てたのが、以下のような、「新駅の利用者数(乗車人員)の多くなりやすさ」を推計する算式です。「人口」「路線」「距離」の3つの要素をかけ合わせています。

 

 新駅の乗車人員の多くなりやすさ 

 = 周辺の人口・従業者数の多さ 

  × 路線ごとの利用者の得やすさ 

   × 既存駅からの距離に応じた利用者の得やすさ 

 

今回の記事では、この3要素のうち、「人口の要素: 周辺の人口・従業者数の多さ 」 と「距離の要素: 既存駅からの距離に応じた利用者の得やすさ 」の2要素を取り上げます。

そして、この2要素の掛け算によって、「どこの地域に新駅を設けると、乗車人員が多くなりそうなのか?」を評価し、それを地図に描いてみることにします。

 

なお、これ以降、この「 人口の要素  × 「 距離の要素 」によって評価される「 新駅の乗車人員の多くなりやすさ 」を、「新駅需要」と表記することとします。

 

※1:「新駅」について

ここで言う「新駅」とは、単独駅(乗換駅でない駅)のみを指します。

あえて乗換駅を含めていないのは、当面の分析の目的が、「現在鉄道が通っていない地域のうち、どこに鉄道を通すのが有望そうなのか?」を見定めることにあるためです。

新規に鉄道を通すべき地域が見定まった後に、「その路線をどこの駅に接続させるとよいのか」を考えることを予定しています。

 

※2:分析に用いたデータ

この分析に当たっては、首都圏近郊から、「既存の鉄道網の中に、後から開通した路線(後発路線)」を抽出し、その路線の単独駅(計179駅)のデータを用いました。(参照:「既存駅からの距離に応じた乗車人員の増減」を数値化する …考え方と回帰モデルの基本形 

各駅の利用者数は、多くの鉄道会社の駅についてデータがある、「乗車人員」を用いています(よって、降車客の数は含まれません)。

 

 

  人口の要素…「周囲1km圏内の住勤鉄道需要」

 

前回の記事で述べた通り、上の式のうち「人口の要素: 周辺の人口・従業者数の多さ 」 には、「周囲1km圏内の住勤鉄道需要」を用いています。

これを地図で表すと、以下のようになります。

 

図1 周囲1km圏内の住勤鉄道需要の分布

周囲1km圏内の住勤鉄道需要の分布

 

なお、過去の記事「「住勤鉄道需要」を地図化する」に載せた地図では、「五次メッシュ(4分の1地域メッシュ)」ごとに住勤鉄道需要を算出していました。

 

 

この五次メッシュは、「250mメッシュ」とも呼ばれ、北緯36度付近では、東西約281.8m×南北約231.2mの(ほぼ)長方形をとります。感覚的には、「〇〇町△丁目」より若干小さい程度の面積です。

そのため、メッシュ1つ1つの数値は、ほぼピンポイントといえるような、狭い範囲の需要を示しており、そのため、局地的な値の高低が、そのまま地図に表れることとなります。

 

これに対し今回は、メッシュの中心から1km圏内という、より広い範囲(面積にして48倍程度)の人口・従業者数を加味して、住勤鉄道需要を算出しています。

そのため、「「住勤鉄道需要」を地図化する」に掲載した地図と比べて、メッシュ間の凹凸がならされた、なだらかな塗り分けとなっています。

 

  距離の要素…「近隣抑制指数」

 

前回の記事で述べた通り、「距離の要素: 既存駅からの距離に応じた利用者の得やすさ 」には、入力値:「既存駅からの距離」に対して、出力値:その距離における「乗車人員の多くなりやすさ」 を出力する、 関数f を用いています。

 

 

ただ、いつまでも「 関数f 」という言い方を続けるのも分かりにくいため、ここで、 関数f や、その出力値である  f(d) を表す呼び名を決めておきたいと思います。

 

  関数f は、下の図のように、他路線の最寄駅(≒後発路線からみた既存駅)からの距離が遠くなる(グラフの右側に行く)につれて、乗車人員が多くなる(グラフが上側に行く)関数です。

これは、逆にいえば、「他路線の最寄駅に近づくほど、(需要の食い合いなどにより)乗車人員に抑制がかかる」ということでもあります。

 

図2 関数f:近隣抑制関数のグラフ

 

この「近隣だと乗車人員が抑制される」という部分を捉えて、これ以降、 関数f を「近隣抑制関数」、その出力値 f(d) を「近隣抑制指数」と呼ぶことにします。

 

さて、近隣抑制指数を地図上で表すと、以下のようになります。当然のことながら、駅のに近づくにつれ、円状に値が小さくなっています。

 

図3 近隣抑制指数の分布

近隣抑制指数の分布

 

  新駅需要=1km圏内住勤鉄道需要×近隣抑制指数を地図に描く

 

ここまでの話をまとめると、「新駅需要」(=どこの地域に新駅を設けると、乗車人員が多くなりそうなのか?)は、「人口の要素=1km圏内住勤鉄道需要」と「距離の要素=近隣抑制指数」との掛け算によって、評価することとなります。

 

式で書くと、次のようになります。

新駅需要 =  1km圏内住勤鉄道需要 × 近隣抑制指数 

 

この新駅需要を地図に描くと、以下のようになります。計算としては、図1の値と、図3の値とを掛け算した地図を描くこととなります。

 

図4 新駅需要の分布

新駅需要の分布

 

図5 新駅需要の分布(拡大図)

新駅需要の分布(拡大図)

 

これを見ると、県の南東部、とりわけJR武蔵野線よりも南側の地域と、浦和・大宮周辺に、新駅需要の大きな地域が分布していることがわかります。

 

  新駅需要が大きい地域


図5のうち、新駅需要が10000以上である地域のみを取り出したのが、図6です。

 

今回の地図では、 路線ごとの利用者の得やすさ を加味していないため、例えばどこの地域との間を結ぶ路線を作るかにも大きく左右されるのですが、基本的には、「図6で色塗りがされている地域が、新規に鉄道を通すと、多くの利用者が見込みやすい地域だ」ということができます。

 

川口~浦和~大宮にかけての地域(B,C,D,G,H,I,K,L,M)のほか、朝霞市・新座市から東京都練馬区北西部にかけて(A,F)や、草加市の東西(E,J)に、「新駅需要が大きい地域」がまとまって存在しています。

また、 近隣抑制指数 がかかっているため、鉄道駅の近くでは、新駅需要の値は大きくなりにくくなっているとはいえ、川口~浦和~大宮にかけての地域では、JR京浜東北線やJR埼京線のすぐ近くの地域にまで、この「新駅需要が大きい地域」が分布しています。

 

図6 新駅需要の分布(10000以上の地域)

 

図5 新駅需要10000以上の地域が10メッシュ以上集まった地域

新駅需要が大きい地域