分析内容の振り返り

ここまで、3回の記事にわたり、「既存駅から遠い場所の新駅は、近い場所の新駅の何倍の利用者が見込めるか」を把握するための分析を行ってきました。今回は、その分析結果をまとめることにします。



 

分析の考え方と算式

新規に開通する路線の新駅が、どれだけの利用者数(乗車人員)を見込めそうなのかを推計するにあたり、ここでは、以下のような考え方の掛け算を用いました(実際に用いた数式を、若干意訳した表現で書いています)。

 

 新駅の乗車人員の得やすさ 

 = 周辺の人口・従業者数の多さ 

  × 路線ごとの利用者の得やすさ 

   × 既存駅からの距離に応じた利用者の得やすさ 

 

分析の対象

この掛け算の各要素を具体的な数値で表すに当たり、未だ存在しない路線の駅の利用者数を用いた分析は、当然のことながらできません。

そこで、「新規に開通する路線の新駅」の代わりに、実績のデータが既にある駅として、開通年次が比較的新しい「後発路線」を首都圏近郊から19路線抽出し、その19路線から179の単独駅を抽出して、分析対象としました。

 

「周辺の人口・従業者数の多さ」として「住勤鉄道需要」を投入

上の掛け算のうち、「 周辺の人口・従業者数の多さ 」には、過去の記事 「「住勤鉄道需要」を地図化する」で作成した指標、「住勤鉄道需要」を投入しました。

 

この住勤鉄道需要は、人口や従業者数に単純比例させたものではなく、性別や年齢、職業の違いによる鉄道等の利用頻度の違いを加味して算出した、当該地域の鉄道に対する潜在的な需要を示す指標となっています。

 

 

「路線ごとの利用者の得やすさ」として「路線別係数」を算式に組み込む

上の掛け算のうち、「 路線ごとの利用者の得やすさ 」については、「路線別係数」を算式に組み込みました。

路線別係数とは、「ある路線の駅に対して、別の路線の駅が(他の条件が同じならば)何倍の乗車人員を見込めそうなのか」を、数値化したものです。

 

  分析結果

 

路線ごとの利用者の得やすさ=路線別係数 の結果

首都圏近郊の後発路線の単独駅179駅のデータから算出した、「 路線ごとの利用者の得やすさ 」=「路線別係数」の算出結果を、表1に示します。

 

表1 分析対象19路線ごとの利用者の得やすさ = 路線別係数

 

後段の「 既存駅からの距離に応じた利用者の得やすさ 」の部分で2種類の分析方法をとったため、 路線別係数 にも、分析①で算出した係数と、分析②で算出した係数の2種類があります。

2つの分析のうち、最終的な分析として行った分析②の結果を見ると、最大の東京メトロ有楽町線(和光市~池袋間)の係数が1.777である一方で、最小の千葉都市モノレール(1号線・2号線)の係数は0.126であり、その差は実に14倍強にも上る結果となりました。

 

新駅で見込まれる乗車人員は、この分析のメインテーマである「 既存駅からの距離に応じた利用者の得やすさ 」だけではなく、「どの路線の駅であるのか」によっても、きわめて大きな影響を受けることが分かります。

 

既存駅からの距離に応じた利用者の得やすさ=関数f(d)

上の掛け算のうち、「 既存駅からの距離に応じた利用者の得やすさ 」については、まず分析①として「距離帯別係数を用いた分析」を行い、 他路線の最寄駅からの距離(d)に対して「乗車人員の多くなりやすさ」を出力する、関数f(d)のグラフの概形を把握しました。



その結果を踏まえ、分析②では、関数f(d)の部分にロジスティック回帰分析を投入した分析を行いました。



分析②で得られた関数のグラフを、図1に示します。

 

図1 他線の最寄駅からの距離に応じた利用者の得やすさ = 関数f(d)のグラフ

(分析② ロジスティック回帰分析を投入した場合)

 

ここからは、以下のような傾向を読み取ることができます。

  • 乗車人員は、「他路線の最寄駅からの距離」に大きく影響される。
  • 「他路線の最寄駅からの距離」が遠いほど、乗車人員が多くなりやすい。
  • 一方、3~4km以上離れると、それ以上に乗車人員は増えにくい。

これは、少し見方を変えると、次のような解釈となるのかもしれません。

  • これまで鉄道駅が遠かった地域に新線が開通し、近くに駅ができた。
  • すると、新駅の近隣の人の多くが新駅を利用することとなる。
  • しかし、そもそも鉄道を使わない人は、どこに鉄道駅があろうとも駅を利用しない。
  • また、新駅を利用する人にしても、一日に十度も二十度も利用するわけではない。
  • よって、たとえ既存駅から遠い新駅であっても、その需要には上限がある。

 

このグラフの具体的な数値を、表2にまとめました。

 

表2 他線の最寄駅からの距離に応じた乗車人員の多くなりやすさ

(分析② ロジスティック回帰分析を投入した場合)


他線の最寄駅からの距離1000mの位置の駅を基準とした時、2000m地点では2.01倍、3000m地点では2.62倍、4000m地点では2.81倍、乗車人員が多くなりやすいという分析結果となりました。

 

  次回の予定

次回の記事では、過去の記事 「「住勤鉄道需要」を地図化する」で地図上で示した住勤鉄道需要に、今回の分析で得た図1のグラフ=「他線の最寄駅からの距離に応じた利用者の得やすさ」を乗じて、「(路線ごとの係数を加味しない場合の)新駅の利用者数の見込みやすさ」を地図化します。

この地図は、少し言い方を変えると、「どの地点に新駅を設けると、多くの利用者を見込みやすいか?」を示した地図ということができます。