数年前まで、猫を飼っていました。
近所のノラ猫が家の敷地に姿を見せるようになり、少しずつ、少しずつ仲良くなり。
私の仕事っぷりをジーっと観察するのが好きな、基本的に厳しいお顔の、でも、穏やかで賢いおばあちゃん猫でした。
「あの……そこはあなたの席ではありません……」
「あの……視線が気になって仕事になりません……」
「あの……そのメモ帳はお布団じゃありません……」
私は掃除のたび、彼女の抜けたヒゲを集めて保管していました。
今日、床に落ちていた自分の白髪を見ていたら、彼女の真っ白なおヒゲを思い出してしまって。
トラちゃん、私もあなたのおヒゲのような、真っ白い髪になったよ。
あなたのおヒゲのほうが太くて立派だけど、あなたのモフモフだったお腹や胸の毛よりはツンツンしていて、可愛げのない白髪になっちゃった。
自分の毛づくろいのついでに、私の髪や手もなめてくれたトラ子さん、今の私の髪は、気に入ってくれるでしょうか?



