EDEN1(地球編)-3(希望学園)


【希望学園①】

西暦2038年12月

神奈川県私立希望学園


その年のインターハイを制した希望学園の女子バレー部は、全日本バレーボール高等学校選手権に向けて猛練習を重ねていた。事件が起きたのは、クリスマスも近い12月10日の事である。


「あんた1年のくせに生意気よ!」


「1年で唯一のレギュラーを取ったからって調子乗るんじゃないわ。」


「なに可愛い子ぶってんのよ!マミ、ハサミ持って来な。」


「!?」


「なにビクついてんのよ。髪を切るだけよ。女バレ部員がオシャレしてんじゃないわよ。」


「その長い髪は練習の邪魔ね。坊主にしなさい。」


インターハイを制した3年生が部活を引退し、現2年生がレギュラーの大部分を占める中で、1年生である岡本 恵(おかもと けい)がレギュラー入りした事が引き金となりイジメが始まった。無視や嫌がらせ、不必要な体罰とイジメは次第にエスカレートして行き、この日、恵の自慢の長髪が切り落とされる事態にまで発展する。


12月16日

希望学園1年2組


「ちょっと恵!その髪どうしたのよ?」


クラスの女子が恵の変わり果てた髪型を見て一様に声をあげた。


「また先輩に苛められたの?先生に言って来ましょう!」


「無駄よ、女バレは選手権大会でも優勝候補だから、問題が表に出ると出場停止になる。先生方も取り合ってはくれないわ。」


「そんな……。」


このまま放置すればイジメはエスカレートする一方である。


「私、部活止めるわ。」


「なに言ってるの!せっかくレギュラーを取れたのに!」


「他に方法が無いじゃない!」


「………………。」


「揉め事でしょうか?」


「……ひかりさん?」


そこで話に割って入ったのは、数カ月前に転校して来た女生徒である星空 ひかり(ほしそら ひかり)であった。お洒落で可愛らしい容姿をしている ひかりは、転校生でありながらクラスメイトからの人気は高い。


「ふむふむ。なるほど。」


そして、話を聞いた ひかりは、一つの提案を持ち掛けた。


「先輩達と試合ですって?」


「私達が?」


「えぇ、私達が試合に勝てば恵さんをイジメないと約束させるの。部員でもない生徒に負けるなら全国大会での成績もたかが知れているもの。」


「なに言ってるのよ。ひかりは転校生だから知らないかもだけど、うちの女バレはインターハイ全国優勝してるのよ。勝てる訳が無いわ。」


「バレーボールなら、私も少し出来るわ。レギュラー入りした恵さんと私がいれば可能性はゼロではないかな。」


「あのねー。そんな簡単には………。」


「見てみる?私の実力。」


「………………。」


その日の放課後、1年2組の生徒達が体育館に集まった。


バシュ!


バシッ!


ズバッ!


「!」「!」「!」


「ひかり…………あなた何者?」


「運動が得意なだけよ。」


星空 ひかり(ほしそら ひかり)の運動神経は、高校生のレベルを越えており、サーブ、スパイク、レシーブのどれをとっても超高校級なのは明らかだ。


「バレーボールは団体協議、私と恵さん以外に経験者はいる?」


「あ、バレーの経験は無いけどスポーツは得意よ。」


バスケットボール部期待の星、有坂 香織(ありさか かおり)が名乗り出ると、他にも数人のクラスメイトが名乗り出て7人のメンバーが集まった。


「あとは先輩に条件を飲ませる事ね。先生にも立ち会ってもらいましょう。」



【星空 ひかり①】

西暦2038年12月17日

全国でも屈指の強豪校である希望学園の女子バレーボール部が、1年2組の寄せ集めチームに負けるなど誰一人として思っていなかった。


バシュ!


「ひかり!」


「任せて!」


ズバッ!


「!?」「!」「!」


ピィー!


「25点目!第二セット!1年2組!」


どよっ!


大方の予想に反して、第二セットを取った1年2組は試合をタイに持ち込む事に成功する。星空 ひかりは1人で20得点を叩き出しスパイク率は脅威の90%越えを記録した。


「誰よあれ!?」


「転校生!嘘でしょ!?」


躍動感あるプレーは、観る者を魅了し、体育館に集まった生徒達は1年2組の応援一色に染まって行く。


「聞いたか?女バレが危ないらしいぞ!」


「体育館だ!急げ!」


わいわい


がやがや


「頑張れ1年生!」「負けるなよ!」


焦り出したのはバレー部員の方だ。


「第二セットは僅差で負けたけど次は大丈夫!」


「転校生だけ注意して!」


勝負の決まる第3セットは一進一退の攻防が続き、試合は最終局面となる。


「これで決める!」


ズバッ!


女子バレー部の強烈なスパイクを、岡本 恵(おかもと けい)が懸命に打ち上げた。


「取られた!」「転校生をマークして!」


星空 ひかり(ほしそら ひかり)の前には3枚のブロックが立ちはだかるが、トスが上がった先にいるのは、ひかりではなく有坂 香織(ありさか かおり)であった。


ズバッ!


「しまった!」


「良し!」「25対25!」


万が一負けでもしたら、強豪バレー部のプライドが許さない。2年生達も必死である。


「次のサーブは、ひかり!頼んだよ!」


「わかった!」


白色のバレーボールを手のひらにそっと乗せて、ひかりはボールに集中する。


ドクン


ドクン


シュッ!


ズバッ!


「おぉ!」「サービスエースだ!」


「あと1点!あと1点!」


体育館に鳴り響く歓声がひかりに降り注ぐ。それは、ひかりにとっても初めての経験である。17歳になった 星空 ひかりには友達と呼べる者は存在しない。この学校に転校して来るまでは、ひかりには自由と言うものが存在しなかった。


ドクン


ドクン


ひかりがバレーボールを頭上へと放り投げる。


シュッ!


バシッ!


ズバッ!


「!」「!」「!」「!」


わっ!


体育館に大歓声が沸き起こり、試合は1年2組の勝利で幕を閉じる。


「ありがとう!ひかりさん!」


「ううん。みんなが頑張ってくれたし、恵さんも凄かったわ。」


そこに、有坂 香織(ありさか かおり)が近寄って来る。


「あんた凄いわね。バスケ部に入らない?」


「いやぁ、部活はちょっとね。」


「そんなに運動神経が良いのに勿体ないわ。」


「はは…………。」


「でもアナタ、明日から有名人よ?」


「え?」


「今の試合、SNSで拡散されるから。世間が黙っていないと思うな。」


「えぇ!?」
 

3試合の合計得点は脅威の50点越え、スパイク率は90%、しかも相手はインターハイの全国優勝校のレギュラーである。


「転校生!いや、星空 ひかりさん!」


声を掛けて来たのは女子バレー部のエースである2年生だ。


「一緒に全国優勝を目指しましょう!」


「えぇー!?」


こうして、星空 ひかりは、その名を全国へ轟かせる事になる。