【永遠の物語】
西暦2040年6月13日
弘前城で籠城していた光明神教の巫女、光明 永遠(こうめい とわ)が、日本政府に拘束されたというニュースが世界中を駆け巡った。このまま永久(とわ)は国連に引き渡しとなり、世界中に信者を広げた光明神教も終わりだろうと、多くの人がそう思っていた。
六ヶ所村
青森県六ヶ所村にある小さな集会所に集まった能力者の人数は28名。その誰もが一見すると何の変哲もない普通の人間に見える。
「これ全て能力者なの?」
此上 楓(このうえ かえで)は、同じく北海道から青森県入りした青年、東條 進(とうじょう すすむ)に尋ねる。
「あぁ、日本にいる能力者のおよそ8割は集まっている。目的は、光明 永久(こうめい とわ)の抹殺だ。」
「でも政府に捕まったんでしょ?」
「あれは永久(とわ)ではない。影武者だ。」
「影武者!?」
「仲間の1人、土方 清十郎(ひじかた せいじゅうろう)は、2年前の戦闘で永遠に右眼を奪われた。その時に新しい能力が開花したんだ。清十郎は永遠の居場所をどこに居ても感知できる。」
「感知って、どうやって?」
「理屈は本人にも分からないさ。俺達の能力を説明できる人間など1人もいない。」
ヒューマノイドには大きく分けて3種類の能力者に分けられる。能力強化型のヒューマノイドは、単純に個々人の能力が強化される。此上 楓(このうえ かえで)は、常人の何倍ものスピードで走る事が出来る強化型のヒューマノイドだ。
肉体変形型のヒューマノイドは、身体の一部を別の物体に変形する事が出来る。中には、撃ち込まれた銃弾を身体から放出して撃ち返す事が出来るヒューマノイドもいるらしい。
そして、3つ目のタイプが特殊能力型と呼ばれる希少なヒューマノイドだ。遠くにいる人間の気配を察知したり、他人の思考を読み取ったり、人によって能力は様々だ。
「2つ以上の能力を使いこなす能力者もいる。俺は変形型の能力を使う。爺さんは特殊能力型だ。」
「なんか凄いのね…………。」
これだけの能力者が集まったのだから、光明 永遠を殺すのは簡単だろうと楓は思ったが、進(すすむ)はそれを否定した。
「永遠の能力は、能力者の中でも特別だ。次元が違う。」
「能力者?永遠さんも能力者なんですか?」
「結界にも入り込んで来るからな。ほかに考えられない。」
「そんな………、それなら私達の仲間でしょう?」
「そんな事は知るか。光明神教は、なぜか俺達を目の敵として何十人も仲間が殺された。奴だけは生かしておけねぇのさ。」
進は語気を強めて話を続けた。
「仲間達が集めた情報によると、弘前城から抜け出した光明 永遠(こうめい とわ)は、ここ六ヶ所村に向かっている。港から海外へ逃げるつもりだろう。その前に奴を殺す。」
政府に見つからない為か。永遠の護衛は4人のみで、他はいない。チャンスは今しか無い。
「護衛4人の素性が判明しました。」
そこに、仲間の1人が報告を始める。
「日本国警察庁第一機動隊の隊員である本庄 サトシ(ほんじょう さとし)。同じく第一機動隊の近藤 シュウ(こんどう しゅう)。東京都の学生である綾小路 玲王(あやのこうじ れお)と茜(あかね)の兄妹になります。」
「学生?」
「殺し屋じゃよ。」
そこで爺さんが口を挟んだ。
「厄介じゃのぉ。永遠だけでも大変じゃのに、綾小路兄妹が相手になると簡単には行かないのぉ。」
「爺さん、知ってるのか?」
「綾小路 玲王(あやのこうじ れお)の射撃の腕は超一流じゃな。強化型の能力者でも玲王の射撃から逃れる事は無理じゃろう。変形型で銃弾に耐えられる能力者はいるかの?」
「俺が弾除けになるよ。」
そう言って、のそりと立ち上がってのは、身長2mはある巨漢の男だった。
「俺は肉体を強化金属に変形できる。撃ち返す事は出来ないが、弾く事は出来る。」
「源治(げんじ)か……。良いじゃろう。お前の仕事は、玲王を捕まえる事だ。玲王に接近して奴を拘束する事だけを考えるんじゃ。」
「わがった。」
「強化型の能力者、とくにスピードに優れた能力者は、機動隊の2人を殺すのじゃ。接近してナイフで頸動脈を切る。スピード型はおるかの?」
「え?あたし?」
爺さんと目があった楓が焦った様子で自分の顔を指を指した。
「爺さん、楓は荷が重い。人を殺した事も無いだろう。俺達で何とかするさ。」
東條 進(とうじょう すすむ)が助け船を出すと、楓はほっと胸を撫で下ろした。
「綾小路 茜(あやのこうじ あかね)はどうします?優れた陰陽師と聞くが能力は未知数です。」
「ワシが相手をする。数秒程度なら動きを止める事は可能じゃろうて。」
爺さんの特殊能力は金縛りの能力であり、睨んた相手の動きを止める事が出来る。
「他のメンバーは全員で、光明 永遠(こうめい とわ)を殺す事じゃな。重火器の無いワシ達の武器は刃物になる。」
────命運を祈る
西暦2040年6月13日
午後10時37分
本庄 サトシ(ほんじょう さとし)から放たれた銃弾が、東條 進(とうじょう すすむ)の頬を掠めた。
「くっ!」
(近付け無い!)
遮蔽物の無い結界の中では、拳銃を持っている、サトシ達の方が有利である。
「結界を解け!誰だ!結界を張ったのは!」
「うろたえるな。結界を張ったのはワシ達ではない。奴等の方じゃて。」
「なんだと!?やはり、光明 永遠(こうめい とわ)は能力者か!」
「永遠(とわ)では無いのぉ。結界を張ったのは、綾小路 茜(あやのこうじ あかね)じゃ。」
「茜!馬鹿な!奴も能力者か!?」
ズキューン!
ズキューン!
「ぐわっ!」「ぎゃあ!」
「結界はワシが解く!撤退の準備じゃぁぁ!」
「!」「!」「爺さん!」
ピキィーン!
「はぁ、はぁ、何人いる?」
「えと………私達含めて7人。」
東條 進(とうじょう すすむ)の質問に、此上 楓(このうえ かえで)が答えた。
「反対側に逃げた仲間もいる。殺られたのは5〜6人って所だろう。」
「志熊(しぐま)さん。」
ヒューマノイド達、日本にいる能力者を束ねる組織のリーダー。志熊 実(しぐま みのる)は、自らの作戦の失敗に眉をひそめた。
「俺達の奇襲がバレていた可能性が高い。重火器の無い俺達が勝つ見込みは、その時点でゼロだ。」
「バレていたって、裏切り者が?」
「志熊さん。1つ良いですか?」
「土方………、なんだ?」
土方 清十郎(ひじかた せいじゅうろう)は、永遠(とわ)に抉られた左目を押さえて口を開く。
「何度やっても無駄です。光明 永遠を殺す事は出来ない。」
「………どういう事だ?」
「奇襲をバラしたのは裏切り者ではないからです。私達の行動は永遠(とわ)に全て読まれる。」
「……まさか。」
「おそらく光明 永遠は未来予知型の特殊能力者でしょう。」
「未来予知?そんな能力は聞いた事が無い。」
「志熊さん、とにかく仲間と合流しましょう。」
この日の作戦は失敗した。
翌日、光明 永遠(こうめい とわ)を乗せた船は、六ヶ所村の港を出発し、一路アメリカへ向かう事となる。
